Z世代のメンタルヘルスに異変、最も幸福を感じない世代に ソーシャルメディアの影響も
明確にならない不幸の原因
幸福度の曲線が変化していることに関して、臨床心理士のアンバー・ウィムサット・チャイルズ氏は「ここ20~30年に増え続けている戦争やそれに伴う人道危機が増えていることも一因」だと独自の理論を唱えている。高校や大学の卒業スピーチを考察し、「状況を変えるためには世界が学生の創造性や革新性をこれまでにないほど求めている」というテーマである傾向が高まっていることを指摘、若者に向けられる高度な創造性やイノベーションへのプレッシャーも考えられる。 ただしウィムサット・チャイルズ氏も、ソーシャルメディアが一因であるとするブランチフラワー教授に同意している。既存の懸念事項をソーシャルメディアがさまざまな方法で増幅させ、いわば「大画面で映し出している」ようなものだと指摘。SnapchatやInstagram、TikTokといったソーシャルメディアのアプリは情報を氾濫させ、若者に限らずあらゆる人々が、大規模な「他人との比較」をすることにつながっている可能性があるとしている。 ブランチフラワー教授もまた、人々は常に自分と他人を比較してきたが、これまではもっと身近な「近所のコミュニティ」といった限定的な人たちとの比較であった。今ではその比較対象規模が大幅に拡大しているという点を指摘している。
別の幸福度レポートでも同様の指摘
若者に関する幸福度のレポートは別の報告書もある。国連のレポート「World Happiness Report 2024」では、若者の幸福度が南北アメリカ、ヨーロッパ、南アジア、中東、北アフリカで2006年から減少傾向にあるとしており、主な要因として次の3つを挙げている。
経済的問題
このところの急激な物価上昇に直面している若者たちは、住宅価格、教育費、医療費の上昇によって不安が募り、ウェルビーイングに悪影響を与えている。 これは、学費のローンを抱え、就職しても給与はそこそこ、人生の節目となる住宅の購入や結婚が後ろ倒しになり、人生における成功や安定といった感情を得ることができていないため。これは西側諸国に限った問題ではなく、ブラジルやインドなどの発展途上国でも同様で、特に住宅費用の上昇は重大な懸念事項であることが世界銀行のレポートからもわかっている。 また、ギグエコノミーや不安定雇用が従来型の働き方と比較して自由や専門性を発揮できる一方で安定性や福利厚生などの生活する上でのベネフィットが少ないというマイナス面がある。不安定な雇用では、当然ローンの申し込みも難しく、将来への不安が増すばかりだ。国際労働機関の2023年のレポートでも、先進国での若者の失業率は引き続き高いままで、開発途上国における状況はより深刻とされている。