明らかになりはじめた戒厳令の裏側、尹錫悦大統領を突き動かしたのは陰謀論好きの政治系YouTuberだった可能性
注目の裁判結果は「嫌疑なし」だった。だがそれでも、政治YouTuberたちと一部保守支持者たちは、文在寅政権下での裁判結果を受け入れることができなかった。 ■ 極右YouTuberに自分からコンタクト取る大統領 不正選挙疑惑は22年5月の大統領選でも再浮上した。当時は「コロナ政局」でコロナ感染者が隔離されなければならなかった時期だ。そのため、新型コロナウイルス感染者のための投票所が別に設けられたが、係員たちの経験不足により様々な問題が浮上し、再び不正選挙疑惑が浮上したのだ。 記票された投票用紙を中身が透けて見えるビニール袋の中に入れたとか、有権者に記票のために配った封筒の中にすでに記票された投票用紙が入っていたといった“疑惑”の現場写真や動画がSNS上に多数投稿され、再び不正選挙論が強く提起されたのだ。 しかし、大半の保守支持者は不正選挙論を信じていない。もともと期日前投票は保守層より進歩層が積極的に参加するため、期日前投票で進歩候補の票が多く出るのは当然だからだ。また、中央選挙管理委員会が不正投票を画策したという発想自体が、民主化されていない政治後進国型の発想だ。 ところが、尹錫悦大統領はこの後進国的な発想にとりつかれていたようだ。政界では「尹大統領は保守系政治YouTuberの熱烈な視聴者」と噂されている。噂によると、尹大統領はYouTuberに直接電話をかけ「面白かった」と伝えたりしているという。大統領就任式当時には数多くの政治系YouTuberを国会に招待したが、そこには普通の韓国人が「極右」と呼ぶようなYouTuberも多数いたのである。
■ 梨泰院事件について「陰謀論」の可能性を排除せず 金振杓(キム・ジンピョ)元国会議長は自身の回顧録で、梨泰院惨事以後、尹錫悦大統領との会談内容に言及しながら、「(尹大統領が)『私はこの事故が特定勢力によって誘導され操作された事件である可能性も排除できないと思っている』と語った」と主張した。 梨泰院惨事はハロウィンイベントに集まった群衆によって発生した雑踏雪崩事故だが、保守系YouTuberたちはたまたま事故現場付近に民主労総所属の車が止まっていたという点を根拠に「民主労総が事故を企画した」と主張した。また、「仮面をかぶった正体不明の人が人波の中に混ざっていた」とし、「従北勢力の企画だ」と主張するYouTuberもいた。 金元議長は、尹大統領が彼らの主張を鵜呑みにしていると心配したのだ。 金元議長は、「私は心の中で驚いた。極右YouTuberの言葉が大統領の口からすらすらと出てくることを信じられなかった」として、「『そのような動画はどうか見ないでください』と言いたい思いがやまやまだったが、ぐっと我慢した」と付け加えた。 今回の戒厳令事態では、戒厳令宣布のわずか7分後に京畿道果川市にある中央選挙管理委員会に300人余りの戒厳軍が押しかけたのだが、これも不正選挙疑惑を一貫して主張してきた政治系YouTubeの影響と見る向きが多い。選管は普通、戒厳の状況で掌握しなければならない権力機関とはみなされないからだ。