「ドアを開けたら、くの字になって倒れていた」遺体の第一発見者はヘルパーだった…孤独死を支えきれない訪問介護、その深刻な〝綱渡り〟
▽「ただの仕事ではない」 千葉県市川市の「訪問介護事業所愛ネット」でヘルパー業務を統括する行田まなみさん(60)も、担当した約10年前の経験を鮮明に覚えているという。 「ドアを開けたらベッドの下でくの字になって倒れていました」 遺体は80代の女性。たばこを吸い、お酒を飲む人だった。119番すると「心臓マッサージをするのであおむけにしてください」との指示。だが、既に死後硬直が始まっていた。 女性が失禁していたことに気付いた行田さんは、救急隊の到着前に急いでおむつを替えた。「女性だったので。そうしてあげたかったんです」 私服の警察官からは2時間近く事情聴取された。厳しい表情で何度も同じことを質問され、怖さを感じたという。 当時を振り返ってこう語る。 「亡くなった方は、もちろん他人です。でも短い時間でも人生に関わって生活を支援してきた人です。お付き合いが長くなればなるほど、信頼し合います。ただの仕事ではないんです。ヘルパーさんによって違うかもしれませんが、私は自分の親に接する気持ちで仕事をしています。だからつらかった」
ヘルパーは利用者の死に向き合う機会が少なくない。長年、担当してきた利用者が施設や病院で亡くなったという情報は訪問介護事業所に日常的に届く。在宅でみとりに立ち会うこともある。 「私たちは待ってくれている人の家へ行かなければならないんです。みとりを経験した社員も悲しんでいましたが、やめた人はいません」 ▽事業所の負担大きく ヘルパーが遺体の「第一発見者」になると、訪問介護の態勢そのものも危うくなるという。首都圏で訪問介護事業所の代表を務めるAさんは、現状をこう説明する。 「訪問時に利用者さんが亡くなっているケースは間違いなく増えています。ヘルパーの負担も大きいですが、事業所の負担も大きいんです」 利用者が遺体で見つかると、事業者は現場に責任者を派遣する。動揺するヘルパーをひとりにできないためだ。警察の事情聴取を長時間、受けることもある。次に予定していた訪問先に間に合わないと判断すれば、代わりのヘルパーを手配しなければならない。しかも、亡くなった利用者に対応する時間は介護に当たらないため、報酬を申請できない。ただ働きになる。