#生涯子供なし 産んでも産まなくても、罰を受ける女性たち
4人に1人が生涯無子――。なぜ日本は「無子化・少子化」のトップランナーとなったのか? 産まない女性には、人生の義務を放棄しているかのような批判。産んだ女性には、重すぎる自己責任。とりこぼされがちな個々人の視点を中心に、子供の有無を問わず女性に科せられる「罰」について考える。日経プレミアシリーズ『#生涯子供なし なぜ日本は世界一、子供を持たない人が多いのか』(福山絵里子著)から抜粋・再構成してお届けする。 【関連画像】 ●都議会で女性議員を揶揄する声が飛んだ 「早く結婚しろ」「産めないのか」――。 2014年6月18日、東京都議会で質問した塩村文夏(あやか)議員に対しセクハラと受け取れるヤジが飛んだ。 塩村議員は妊娠や出産に関する都の政策を取り上げていた。そこにヤジが複数人から投げかけられ、議場には笑い声も広がった。 これに対し、各方面から抗議が噴出したが、都議会自民党は当初、発言者を特定しようとしなかった。海外でも報じられるなど批判が高まり、同党の鈴木章浩議員だと明らかにした。鈴木議員は記者会見で謝罪したが、他の発言者は不明のまま幕引きになった。 この事件は、子供を持たない女性が時に極めて強い偏見にさらされることが日本であるということを示している。 日経新聞が2023年2月に実施した読者アンケートで、子供がいない人に聞いた「子供がいないことで困ること」の中で、男女で最も大きな性差が出た項目が「偏見を持たれる」だった。 複数回答で、この項目の男性の回答率は12%だったのに対し、女性は20%だった。男性と比べ、女性の方が結婚や子供を持つ希望が低いのに、女性の方が偏見を感じている。このねじれに、日本が抱える深刻な問題が隠れているように思う。 ●産んでも罰、産まなくても罰 子供を持つことに対する女性への負担が重い。 時に、子供を持つことが「自分自身」の人生の犠牲と引き換えにすることを当然視される。「たくさん産んでほしい」と国家が訴える割に、産んだ後は基本的に親の責任になる。 例えば過去最高を更新している子供の不登校への支援などは手薄のままだ。 「出社できないなら辞めてもらえる?」。 筆者が取材をした40代女性は小学1年生の娘が不登校になり、家で様子を見たいと会社に相談すると退社を促された。学校からは不登校について「親に原因はないか」と聞かれ苦しんだ。他に相談しようにも「どこがよいのか分からなかった」という。 産まない女性には、何か人生でするべきことをしていないかのような視線が投げかけられる。 一方で、産めば重い「自己責任」を負わされる。 産んでも罰を受け、産まなくても罰を受けてしまう。 そんな構造が日本社会の底にある。 そんなに悪い見方ばかりしなさんな、という意見もあるかと思う。子供の有無などなんの意識もなく楽しく過ごしている人は多いし、休日の公園に行けば幸せそうな親子があふれている。どんな社会にも光と影があり、人々はそのグラーデションの中で生きている。 ただ、日本は影の底にある構造に目をこらさないままやり過ごしてきたとも言えるのではないだろうか。 日経プレミアシリーズ 『#生涯子供なし なぜ日本は世界一、子供を持たない人が多いのか』 なぜ日本は「無子化・少子化」のトップランナーとなったのか? とりこぼされがちな個々人の視点を中心に据え、データや取材をもとに独自に考察。従来の議論とは一線を画した「裏・少子化論」を展開する。 福山絵里子著/日本経済新聞出版/990円(税込み)