竹中平蔵氏「自民党総裁選、『この国のかたち』を問え」
前提としての行政改革
以上のように根本的な政策変更を行うには、それを実現するための制度的仕組みが必要だ。これを可能にするのが、まさに行政改革(いわゆる行革)だ。 日本はこれまで、およそ20年ごとに大規模な行革を行ってきた。1961年の第1次臨時行政調査会(第1次行革)、1981年の第2次臨時行政調査会(第2次行革=土光臨調)、そして橋本龍太郎内閣の行政改革会議(橋本行革)の成果としての2001年中央省庁再編。しかし気がつけば、前回の行革から既に23年が経過している。この間の技術進歩・経済環境変化のすさまじさを考えると、行政の仕組みを変えることの必要性は極めて高い。 前回の橋本行革の目的は大きく2点あった。総理主導による政策決定の徹底、そして民間の知恵の導入である。しかし総理主導のために大きな役割を果たすべき内閣官房に今や各役所主導の政策会議が乱立し、再び官僚主導の政策決定が進んでいる。これを改める必要がある。 行革としてなすべきことは幅広いが、象徴的な改革としてデジタル歳入庁の創設が挙げられよう。国民は今、政府に対し2つの機関を通して負担を行っている。国税庁(財務省)に対する税金の納付、そして年金機構など(厚生労働省)に対する社会保険料の納付だ。しかも年金機構に関しては、捕捉や記録の点で大きな問題を抱えてきた。米国や英国は、こうした非効率な縦割り組織を一本化して、歳入庁を設けている。そしてそこにマイナンバーを全面的に活用して、デジタル歳入庁とすればよい。それこそが本格的な税と社会保障の一体改革に道を開く。 そのような発想に立てば、重要な社会課題である所得の再配分に関する新しい仕組みも可能になる。岸田文雄内閣では新しい資本主義の名の下に、当初は所得再配分の強化が期待された。しかし給与引き上げの旗振り以外、政府は有効な政策を出してこなかった。 デジタル歳入庁を機能させれば、給付付きの税額控除制度を導入することが可能になる。そもそも日本の所得税制は、かなり明確な累進構造を採用している。それを改良する形で、最低税率を現状のゼロからマイナスにすると考えればよい。今後生成AI(人工知能)などの普及で将来的に失業が発生する可能性を考えると、究極のセーフティーネットとして、やがてこうした制度を真剣に考えざるを得なくなるだろう。