上野千鶴子さん「若い世代は親の介護から学ぶことが大事」 自分の老後前に備えるべきこと
団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年。団塊ジュニア世代にとっては、親の介護だけでなく、自身の老後を意識し始める時期でもある。どのような心構えが必要か。社会学者の上野千鶴子さんに聞いた。AERA 2024年12月23日号より。 【チェックリスト】「幸せな人生を送るための終活チェックリスト」はこちら * * * 団塊の世代が政策的に成し遂げた最大の貢献は、介護保険制度を作ったことです。介護保険の恩恵を受けたことのある人は、保険のない時代には戻れないと思うでしょう。介護保険は家族介護の負担軽減を政策意図および政策効果としています。介護保険は団塊世代が介護家族になりかけた時代に作ったもので、要介護当事者である高齢者の要求で作られたものではありません。 介護保険が24年間続いたことで、現場は確実に進化しました。経験値やスキルが上がり、人材が育ちました。これは日本の財産だと思います。私は「在宅ひとり死」の研究をしてきましたが、初期には同居家族がいないと在宅看取りはできないと言われていました。これが独居でもできるようになった。最近では、認知症の独居でもできるようになりつつあります。もし介護保険のサービスの水準が現状のままなら、あなたも家で死ねる。それが介護保険の達成です。 その介護保険が使えなくなる危機を迎えています。その結果は、再家族化と市場化です。 再家族化で何が起きるか。24年の間に人口構成が変わり、高齢者の単独世帯が増えました。次は夫婦世帯ですが、両方とも高齢化しています。もはや介護資源を家族に期待することはできません。またビジネスケアラー300万人時代と言われますが、ビジネスケアラーが存在できるということは離職しないで済んでいるということです。もし介護保険がなければその人たちは離職を迫られていたでしょう。 もう一つの市場化ですが、医療保険には混合利用は認められていませんが、介護保険には最初から認められています。これは足りない分は自費サービスを買え、高齢者の貯蓄を放出せよ、という経済産業省のシナリオです。どちらもなければ、「在宅」という名の「放置」です。「シルバー民主主義」などと世代間対立を煽ってはいけない。介護保険が崩壊すれば、しわ寄せはすべて子どもに来ます。