サイバーセキュリティにおける官民連携の重要性と現代の課題
サイバーセキュリティにおける政府の役割 欧米諸国では、サイバーリスクに対抗すべく官民の連携が進んでいます。例えば、法執行機関では民間企業と連携し、サイバーリスクに関する情報の共有による脅威の特定および対策を講じるなど、サイバーインシデントに対する迅速な対応とリスク軽減において重要な役割を果たしています。例えば、米国では、連邦捜査局(FBI)や国土安全保障省(DHS)がサイバー攻撃の初期段階で介入し、被害を最小限に抑えるためのリソースと専門知識を提供することで、組織はサイバー攻撃の影響を最小限に抑えることができています。 また、サイバー規制も、国家安全保障の観点から重要です。昨今のサイバー規制は、サイバーセキュリティの向上と国家安全保障の確保を目的としています。米国証券取引委員会(SEC)や欧州連合(EU)の「デジタル・オペレーショナル・レジリエンス法」(DORA)などの規制は、企業がサイバーリスクを迅速かつ可能な限り最大限開示し、適切な対策を講じることを求めています。米国の「サイバーインシデント報告法」(CIRCIA)では、特定のインフラに対するサイバーインシデントの報告を義務付け、透明性と迅速な対応を促進しています。 官民連携の強化に向けた提案 サイバーセキュリティを推進するための官民連携においては、以下の取り組みが求められると考えられます。 1.官民合同のサイバーセキュリティ委員会の設置 政府と民間企業の連携を強化するために、サイバーセキュリティに特化した合同委員会を設立することが有効です。この委員会では、脅威情報の共有、政策の策定、共同訓練の実施を通じて、サイバーリスク管理の向上を目指します。 2.規制の強化と柔軟性のバランス サイバー規制は国家の安全保障にとって重要である一方で、過度な規制はイノベーションを阻害する可能性があります。したがって、規制と柔軟性のバランスを保ちながら、企業の自主的なセキュリティ対策を奨励する政策が求められます。 3.技術革新の促進と人材育成 新たなサイバー脅威に対抗するためには、技術革新の促進とサイバーセキュリティ専門人材の育成が不可欠です。政府と民間企業は、研究開発への投資と専門教育プログラムを共同で推進し、次世代のサイバーセキュリティリーダーを育成する必要に迫られています。 4.インシデント対応フレームワークの強化 サイバーインシデントが発生した際の対応を迅速化するために、標準化されたインシデント対応フレームワークを策定し、官民で共有することが重要です。これにより、サイバー攻撃への対応力を高め、被害の拡大を防ぐことができます。 5.地域および国際的な協力の強化 サイバー脅威は国境を越えて広がるため、地域および国際的な協力が不可欠です。国際的なサイバーセキュリティ基準の策定や、グローバルな脅威情報共有ネットワークの構築を推進し、より包括的なサイバー防御を実現します。 これらの取り組みを通じて、官民の連携をより一層強固なものとし、重要インフラを標的とするような高度なサイバーセキュリティの課題に対処することが可能となります。未来のサイバー脅威に備えるために、今こそ官民が協力して取り組むべきです。 次回は、業界別の重要インフラの保護における教訓と対策について説明します。 藤本大 SecurityScorecard株式会社 代表取締役社長 1996年にNTT入社後、NTT東日本およびNTTコミュニケーションズで法人営業に従事。 製造やサービス、金融などの大手の日本企業や外資企業を担当し、ネットワークやセキュリティのサービスを提供。 2017年にファイア・アイに入社し、パートナー営業部長として主に大手通信事業者とのパートナービジネスを担当。 2020年にSecurityScorecardに入社し、2021年6月24日より現職。