トランプ政権レイムダック化も 身内の反発で頓挫した「オバマケア見直し」
リバタリアニズム掲げる保守強硬派 主流派案を否定
では、なぜ、今回、議会下院で身内からの反発が起きたのか。 それは、端的に言えば、主流派と保守派の対立、とりわけ30人以上を擁する保守強硬派のフリーダム・コーカス(自由議員連盟)との対立を克服できなかったからだ。 民主党からの賛同票がまるで見込めない中、共和党から22名以上の不支持が出れば見直し法案は廃案となる。それゆえ、法案作成を主導したライアン下院議長をはじめ、トランプ大統領、ペンス副大統領、プリーバス大統領首席補佐官、バノン首席戦略官・大統領上級顧問らはフリーダム・コーカスの議員への説得工作に躍起になった。とりわけトランプ氏やバノン氏からの説得は「恫喝」に近かったとさえ報じられている。直前にはフリーダム・コーカスの意向を反映させた修正を行い、それに対して主流派が反発するなど、相当、混乱した場面も見られたほどだ。 それでもフリーダム・コーカスの議員が首を縦に振ることはなかった。その理由は、見直し法案が「十分に保守的ではない」「オバマケアの軽量版に過ぎない」「まだまだ社会主義的」と見なされたからだ。やや大袈裟に言えば、彼らはオバマケアの「廃案」のみを望んでいるであって、連邦政府が関与する「代替案」は不要だと考えている。かたや「廃案」だけでは1400~2400万人が無保険に転ずることの政治的影響を懸念する共和党の主流派は「代替案」が不可欠だと考えている。双方の溝は最期まで埋まることがなかった。 リバタリアニズム(自由至上主義)の影響が強いフリーダム・コーカスは、元来、連邦政府に懐疑的だ。連邦政府よりは州政府、それよりも個人の判断や市場原理に委ねることを第一義的に考える傾向がある。その信念はかなり頑強であり、コーク財団などが資金面から彼らの運動を支えている(リバタリアン系の有力シンクタンク・ケイトー研究所も同財団が設立)。米国には第三政党としてのリバタリアン党が存在するが、フリーダム・コーカスの議員はあくまで共和党の「外側」からではなく「内側」からの影響力拡大を考えている。 もっとも、今回、仮に見直し法案が下院を通過したとしても、フリーダム・コーカスの意向に妥協した法案はあまりに保守的で、上院では通過しなかっただろうと私は考えている。上院も共和党が多数派だが、トランプ大統領に嫌悪感を抱く議員も少なくない。しかも民主党との差は僅か4議席しかない。