トランプ政権レイムダック化も 身内の反発で頓挫した「オバマケア見直し」
トランプ米大統領が最重要課題と位置付けていた「オバマケアの見直し」が頓挫しました。オバマケア(医療保険制度改革)を廃止して代替法案の成立を目指しましたが、与党共和党内の反発を抑えきれず、可決の見通しが立たないことから採決の直前に法案を取り下げました。「オバマケア」には共和党も反対の姿勢を貫いていましたが、なぜ見直し法案は撤回となったのでしょうか。アメリカ研究が専門の慶應義塾大学SFC教授、渡辺靖氏に寄稿してもらいました。 【写真】目立つワンマンぶり “トランプ革命”読み解く今後の注目点は
共和党自体も反対してきた「オバマケア」だったが
トランプ大統領にとって「オバマケアの見直し」は選挙公約の目玉の一つであり、就任初日に大統領令に署名するほど力を入れた優先課題だった。それゆえ、今回、その見直し法案が議会下院で撤回されたことは政権にとって大打撃と言える。 ある意味、イスラム圏7か国からの入国禁止に関する大統領令が連邦裁判所によって差し止められたことよりも、その政治的ダメージは大きい。なぜなら、入国禁止令の差し止めはあくまで裁判所(司法府)による法律上の敗北だったのに対し、見直し法案の撤回は議会(立法府)、とりわけ民主党のみならず、トランプ大統領の身内である共和党内からの反発を背景にした、統治上の敗北だったからだ。 オバマ前政権の政治的遺産であるオバマケアの見直しに民主党員が異を唱えるのは想像に難くない。しかし、共和党員にとっては、「イラン核合意」「(地球温暖化をめぐる)パリ協定」の見直しと並んで、党内が結束できる、比較的ハードルの低い政策課題のはずだった。 トランプ大統領にとっては、選挙期間中に関係が悪化した共和党との関係修復という観点からもオバマケアの見直しには政治的意味があった。いくらホワイトハウス(行政府)のトップといえども、議会の協力なくしては法律を成立させられず、具体的な実績が残せないからだ。逆に、上下両院で多数派を占める議会共和党との関係構築が上手くいけば、ホワイトハウスと議会の「ねじれ」がない現在、2018年の中間選挙、ひいては2020年の大統領選挙に向け、相当な実績を残すことが出来る。 さらには、オバマケアの見直しを早い段階で実現することで、国民に対して実行力を示し、国内外に「変化」を印象付けることが出来る。議会共和党にとっても(拒否権を発動される心配のない)同じ共和党大統領の8年ぶりの就任は絶好の好機だった。