大谷翔平伝説が新たに始まる...「ますますリスペクトされる選手に」
「ドジャース野球の黄金期」
山本のポストシーズン初戦は地区シリーズの第1戦。パドレス相手に3回5失点と投球は振るわなかったが、それでもドジャースは7対5で勝った。地区シリーズの天王山となった第5戦で、山本は同胞のダルビッシュ有と相まみえた。 ドラマのような名勝負で、両者とも好投し、甲乙つけ難かった。ダルビッシュは7回途中まで投げて2失点、2回と7回にソロホームランを浴びた。 このときダルビッシュは地区シリーズでの対ドジャース戦で2回目の先発だった。2回ともドジャースの強打線を向こうに回し、合計13.2イニングでわずか3失点と、38歳の今なおチームに貢献できる剛腕ぶりを見せつけた。 だが、第5戦で山本はそのダルビッシュを上回る快投で、5回無失点に抑えてみせた。ドジャースはナ・リーグチャンピオンシップシリーズに駒を進め、そこで山本は1試合だけ登板。 メッツ相手に5回途中2失点でリードを死守し、ドジャースは10対2で勝利してリーグ優勝に王手をかけた。続くワールドシリーズでは第2戦の先発を務め、ポストシーズンの自身の登板では最も長い7回途中まで投げて被安打1で1失点と、ヤンキース打線を黙らせた。 これだけでは山本がシーズン前にドジャースと交わした12年間で総額3億2500万ドルの契約を正当化できないかもしれないが、今後何年も山本とドジャースのパートナーシップが数々の勝利をもたらすことは期待できる。 MLB1年目でワールドシリーズ優勝のタイトルを獲得した26歳の山本は、WBCでの優勝、日本シリーズでの優勝、そしてオリンピックの金メダルと4つのタイトルを持つ史上初の野球選手となった。 「すごく楽しみにしていて、うれしかったし、いろんな気持ちが入り乱れた」と、ワールドシリーズで初めて勝利投手となった後、彼は通訳を介して語った。「だがその後は試合に出ることに集中しようと努めた」 ドジャースにとっても、山本にとっても、さらにとりわけ大谷にとっても、この忘れ難いポストシーズンとワールドシリーズの数々の場面はこれからも長い間、折につけて心に浮かぶ輝かしい思い出となるだろう。ドジャースのアンドリュー・フリードマン編成本部長が述べたように、今また「ドジャース野球の黄金期」が到来しているのだ。 ■大谷の存在そのものが力に 今のドジャースはまさに黄金のように輝いている。3月に韓国で行われた対パドレス戦で開幕した今シーズンは、7カ月後ニューヨークの大舞台で幕を閉じた。その間に大谷は誰も予想し得なかった偉業をやってのけた。 MVPは11月21日に発表されるが、レギュラーシーズンの活躍ぶりから、大谷の2年連続3度目の満票受賞となるのはほぼ確実だろう。 ワールドシリーズ終了2日後、ドジャースは地元に凱旋し、36年ぶりに優勝パレードを行った(前回に優勝した4年前にはコロナ禍のためにパレードは見送られた)。ロサンゼルスの通りを埋め尽くしたファンは推定25万人。大谷は愛犬のデコピンを抱いて2階建てバスに乗り込んだ。 「ここにいるファンの多さにびっくりしている」パレード中にドジャース傘下のテレビ局の取材を受けた大谷は、そう言って目を丸くした。 そして、ロサンゼルスにとって、自分がどんな存在か知っているかと聞かれると、「(地元に)貢献できてとてもうれしい。ここに集まった人たちはみんな、とても温かく僕らを迎えてくれている」と答えた。 祝賀イベントはその後、ドジャースタジアムでクライマックスを迎えた。選手たちが一人ずつ感謝の気持ちを述べると、満場のファンが惜しみない拍手を送る。 大谷は公の場ではたいがい通訳を介して話すが、ここでは英語で直接ファンに語りかけた。 「この場にいること、このチームの一員であることをとても名誉に思います。おめでとう、ロサンゼルス! ありがとう、ファンの皆さん!」 イベントが終わり、スタンドから人影が消えた後も、スタジアムの内外、いやロサンゼルスの街中が感動の余韻に包まれていた。 ドジャースの関係者、ロサンゼルス市民、日本中の人々、そして大谷と山本をはじめ、この偉業を成し遂げた選手たち全員がこの日共有した熱い思いを永遠に忘れないだろう。 大谷が初めて出場したワールドシリーズはファンが思い描いていた展開とは少し違う形で終わったかもしれない。だが野球史に残る多くの場面と同様、ドジャースの劇的勝利は人々の記憶に刻まれ、今後も輝かしい大谷伝説が紡がれてゆくはずだ。 「ショウヘイがラインアップに残ったこと、そして彼の存在そのものがチームの力になった」と、ロバーツ監督は負傷後もプレーを続けた大谷をたたえた。 「片腕でプレーし続ける彼を、選手たちはますますリスペクトするようになったと思う」
スコット・ミラー(MLB専門スポーツジャーナリスト)