【マンガで学ぶ相続手続き】捨てる前に必ず確認!遺品整理で特に気をつけたいポイントを相続の専門家が詳しく解説
こんにちは。G1行政書士法人 代表の嶋田裕志です。相続・遺言専門の行政書士として10年以上、年間1000件を超えるご相談にお応えし、行政書士の範囲だけでなく、相続税や不動産など相続に関する幅広い知識をもって各専門家とともに相続手続きを代行しています。 【漫画と解説】ある日家族が亡くなった――相続登記を怠った際のデメリットとは 突然ですが、皆さんは、身内の方を亡くされた経験はありますか? 亡くなった人が近しい関係であればあるほど、皆さんは「当事者」として死亡後の手続きに関わることになります。具体的には、その亡くなった瞬間から、通夜、葬儀、役所での手続きなど、とにかく時間に追われながらたくさんの手続きをしなければなりません。 悲しくて、寂しくて、つらくて、耐えがたい状況であっても、手続きは待ってくれません。特に死亡後すぐの手続きには期限があるものも多く、慣れない手続きで心身共に疲れてしまい、体調を崩してしまうという方もたくさんおられます。 ここでは、いざ皆さんが「当事者」になったときに困らず相続手続きができるよう、詳しく解説いたします。 今回は、遺品整理の際に気を付けるべきことや、予期せぬ遺産を発見した際の対応について説明します。 亡くなった人の荷物を片づけることを「遺品整理」といいますが、思い入れがあればあるほど処分しにくいものですよね。しかし、ずっと片づけないままにしていると、たとえばキャッシュカードや生命保険の証書などが埋もれていて相続手続きが漏れてしまう…ということもあり得ます。 生前に家族としっかり話ができていて、大切な情報がすべて伝わっていれば、早々に遺品整理をしなくても問題ないかもしれませんが、突然の不幸であれば、荷物を片づけながら一つひとつ手探りで情報を見つけていかなければなりません。また、「どういったものを探せばいいのか」がわからない状態では、相続手続きにおいて大切なものを誤って捨ててしまうおそれもあります。 ここでは、遺品整理をする際にどういった物に注視して片づければよいかについて、また、片づけを進めていく中で予期せぬ財産が見つかった場合の対応について、詳しくご説明します。 ■遺品整理の際に注視すべきポイント 故人の遺品の中には相続財産の有無を示す“手がかり”が隠れています。故人の荷物がきれいに整頓されている場合でも、ごちゃごちゃしている場合でも、その手がかりに違いはありません。では、相続手続きで困らないためにという視点で、どういったものを意識しながら片づければよいかについて、具体例を挙げながらご紹介します。 ■・繰り越し済の預金通帳や古いキャッシュカード その銀行に口座がある、もしくは口座があったことがわかります。支店名や口座番号がわかれば、現在も口座があるかどうかの照会をかけることができます。 ■・証券会社の封筒や書類 書類が見つかれば詳細がわかりますが、仮に書類の入っていない封筒だけであったとしても、その証券会社と何かしらのやり取りがあったと推測できます。照会をかければ口座の有無などがわかります。 ■・生命保険会社からのハガキやタオル、保険証ケースなど 保険契約があれば、定期的なお知らせが届くことが一般的です。それ以外にも、契約したときに粗品のタオルやハンカチ、保険証ケースなどをもらうこともあるので、保険会社の名前が入った手がかりを見落とさないようにしましょう。 ■・火災保険や自動車保険のハガキ 火災保険は長期で加入することも多いため、郵便の数も少なく気づきにくいかもしれません。自動車保険は車のダッシュボードの中に入っていることもあります。いずれにせよ、損害保険会社の名前を見つけた場合は契約の有無について問い合わせましょう。 これらは相続人にとってお金として考えられる遺産、いわゆる「プラスの遺産」 に関することですが、借金などの「マイナスの遺産」がないかどうかもしっかり調べておかなければなりません。 ■・消費者金融のカード 完済しているかどうかはわかりませんが、利用歴があることは明らかです。残債がないか確認しましょう。 ■・ATMの利用明細 通帳を使わずにATMを利用した場合に発行される小さな紙です。口座振替ではなく振り込みで返済している場合はこの用紙が手がかりになりますので、そこに書かれた送金先へ問い合わせしてみましょう。 ■・督促状 借金をしている方は、公共料金の支払いが遅れたり税金等を滞納していたりすることが多い傾向にあります。督促状を見つけた場合は、その支払いが済んでいるのかどうかを含め、より注意深く手がかりを探すようにしましょう。 「何を探せばよいか」を知っているだけで、遺品整理をするときの心理的な負担も軽くなります。どうしても先送りにしてしまいがちですが、遺品整理によって相続手続きの手がかりが見つかることも多いので、できるだけ早い段階で取りかかるようにしましょう。 ■故人の財産のすべてを把握するのは簡単ではない 故人の財産について、本人から直接聞いていたり、生前に本人がメモを残していたりした場合であっても、必ずしもそれがすべてであるとは限りません。なぜなら、本人でさえ忘れてしまっている情報があるかもしれないからです。 また、相続開始後、誰かがその亡くなった人の相続手続きについて一から十まで案内してくれるわけではありません。つまり、自分たちでどの手続きが必要になるかを把握して動かなければ、手続きが遅れたり漏れたりしてしまう可能性も十分にあります。 どこかに依頼すればすべての財産や手続きを洗い出してくれると思っている方もいるかもしれませんが、実はそんなに簡単なものではありません。 たとえば預貯金に関して言えば、どこか一つの機関や組合などが特定の個人の情報をすべて把握して管理しているわけではありませんので、銀行一つひとつに対して口座があるかどうかの照会をかけていかなければ、口座の有無を確認することはできません。全国の金融機関(都市銀行、地方銀行、信用組合、信用金庫など)は500以上あり、最近は店舗を持たないネットバンクも増えてきました。そのすべてに照会をかけ、口座があるかどうかを確認することは現実的に厳しい、ということは容易に想像できると思います。 やみくもに各所へ確認しなければならない事態を避けるためにも、遺品整理をする中で丁寧に手がかりを見つけ出すことが大切です。 ■遺言書に記載のない財産が見つかった場合の手続き 遺言書があった場合も、そこにすべての財産が記載されているとは限りません。ではもし遺言書に記載のない財産があった場合、その財産についてはどのように手続きをすればよいのでしょうか? たとえば、A銀行の預金は長男、B銀行の預金は長女が相続する旨の遺言があったが、自宅内の荷物からC銀行のキャッシュカードが見つかった、というケースを考えてみましょう。 A銀行とB銀行については遺言書の中で明確に譲り受ける人が特定されていますが、あとから見つかったC銀行の預金については特定されていません。この場合は、遺言書に記載のない財産として、C銀行は、通常の遺産相続手続き、つまり相続人全員で遺産分割協議をして手続きをすることになります。 この考え方は遺言書に限らず、遺産分割協議においても同様です。A銀行とB銀行だけの遺産分割協議を済ませ、あとからC銀行が見つかった場合は、C銀行についてはあらためて遺産分割協議が必要になります。 このように、あとから財産が見つかることは手続きを進めるうえで負担になるため、早い段階で少しずつでも遺品整理を進めて、できる限り手続きが漏れないようにしましょう。 ■残高が不明な口座は、残高がわからないままでも手続きできる 死亡によって銀行口座が凍結していたり通帳がない場合は、残高を確認することができません。この場合、残高証明書を発行して確認することになりますが、相続手続きをするうえでは残高の確認は必須ではありません。 金額がわからないことには遺産分割協議ができないかもしれませんが、故人の口座を解約払戻しすること自体は、銀行所定の用紙に相続人全員の署名捺印があり、その他の必要書類が漏れなくそろっていれば、銀行は対応してくれます。 ただし、相続税の申告が必要な場合は残高証明書が必要になりますので、相続手続きと併せて残高証明書の発行を依頼しておきましょう。 ここまで、故人の財産把握のための手がかりを中心に説明してきました。 相続財産を洗い出すことは地道な作業です。手続きが漏れない・二度手間にならないためにも、少しずつでも早めに取りかかるとよいでしょう。 次回は、遺産分割協議をするにあたって「相続人全員と連絡が取れる」ことの重要性について、もし連絡が取れなかった場合の対応にも触れつつお話します。