蘇州スクールバス襲撃事件 各地で相次ぐ刺傷事件 小出しの当局情報と明かされぬ動機
■中国外務省が「情報解禁」 あくまで「安全」を強調
中国政府が沈黙を破ったのは、事件発生からほぼ1日経った、中国外務省の会見の場だった。 「蘇州市在住の2人の日本人、1人の中国人が同時に襲われ負傷した。2人の日本人は命に別状はなく、負傷した中国人はまだ救命中であり、犯人はその場で逮捕された」と、初めて事件発生を公式に認めたのだ。 その上で、「事件は偶発的なものだ」と改めて強調。計画的に外国人を狙ったものではないとした。さらに、「このような事件は世界のどこでも起こりうるもので、中国は世界で最も安全な国の一つだ」「あなたもそれを、実感しているでしょう」と付け加えた。 外務省の報道官としては、現政権が重視する「安全」を強調することが最も大事だったのだろう。ただ、記者の主観にまで踏み込んで、「安全」を強調する姿勢に、私は違和感を覚えた。 この中国外務省の発表を待っていたかのように、蘇州市の警察当局も、初めて事件を公表。容疑者についての情報も、短く公開した。「容疑者は周という姓で、最近別の場所から蘇州に来た、52歳の無職の男だ」という内容だ。 そこから、中国メディアも事件の事実関係を報じる報道を始めたが、肝心の動機については、まったく発表されなかった。
■痛ましい中国人女性の死 「称号」授与も「日本」には触れず
容疑者の背景についての情報が全く公開されない中で、被害にあった中国人女性が26日に亡くなっていたことが、28日になって公表された。 被害者は胡友平さんという54歳の女性で、蘇州市は「正義感ある勇敢な模範」という称号の授与の検討に入ったという。 ただし、ネットでの反日感情への考慮からか、蘇州市の発表文には「日本」という文字はなく、日本人の親子を救ったという事実は明記されなかった。 国営の新華社通信も独自取材で、事件の様子を詳しく報じた。 胡さんは背後から容疑者を抱きかかえるように倒れ、容疑者に逆手に刺されたのだという。「もし彼女が容疑者を止めなかったから、もっと多くの人が負傷しただろう」という、目撃者の証言も紹介された。 中国外務省も、「彼女は中国人のやさしさと勇気を体現し、正義を貫く精神と、他人を助ける勇気を映し出した」と称賛したほか、北京にある日本大使館も、半旗を掲げて胡さんの死を悼んだ。 多くの子どもたちを救ってくれた胡さんには、感謝の言葉しかない。心からお悔やみを申し上げる。 ただ、事件の全容が、これですべて明らかになったわけではない。