寝たきり社長の働き方改革(26)「夢を追うエネルギー」を育みたい
筆者は起業してから7年間、会社社長として様々な経験を積んできた。決して順調なことばかりではなかったが、この「実践的な積み重ね」が今の自分を構築していると言える。 【連載】寝たきり社長の働き方改革 そんな筆者が、その実務的な経験を買われて、2018年の春から社長業の傍ら、「教員」として働くことになった。筆者が勤めているのは、名古屋市にある女子大学で、ITビジネスを教える非常勤講師である。そして、もう1つ、母校である愛知県立の特別支援学校である。生徒のメンタルケアを行う非常勤職員としてデビューした。 常に寝たきりという重度の障がいがありながら会社を経営する。当然それだけでも、これまで周りから注目されていたが、寝たきり社長の次は、“寝たきり先生”ということで、筆者の初出勤日にはメディア各社が取材に訪れた。もっとも、メディアから注目を浴びたいから教職についたのではなく、筆者は以前から教育現場に携わりたいという強い気持ちを抱いていた。その理由というのは大きく分けて2つある。 まず1つ目だが、それは生徒たちが学校外の世界をあまりに知らな過ぎるということである。これは大学生にも言えるが、とくに特別支援学校の障がい児の生徒に当てはまることである。誤解を恐れずにいうと、多くの教員にも言えることである。 生徒というのは学校内の世界がすべてだと思っている。筆者自身も、特別支援学校在学中はそうだった。学校外の世界というものを正直よく分かってはいなかった。 障がい児の場合、普通の子どもと比べて、なかなか外で遊び回る機会や人と関わる機会も少ないため、圧倒的に物事に対する考え方が閉鎖的になる。そして、学校の先生から教わる「社会のルール」や「一般常識」というものも(一概に否定はできないが)多くは教科書的なものでしかない。 おそらく、それは「教員」という職業は知識や学問を教えるプロであっても、社会人として実践的なノウハウを教えるプロではないからである。実際、世の中の多くの教員は大学で教員免許を取得し、大学卒業と同時に教職に就いている。 だからこそ、もっと多くの実務家に教育現場に携わってもらいたいと彼ら自身が考えているし、筆者自身も、生徒たちに外の世界について伝えてあげたい。そして、今の多くの子どもたちに欠如している能力「夢を追うエネルギー」を形成させてあげたいと考えている。 そして2つ目だが、1つ目に教員について否定的なことを掲げた一方で、教員という職業は他の職業にない傑出した魅力があるということだ。 筆者は会社経営を行う上で、常に競争という世界で戦っている。個人的には競争は好きではないのだが、ビジネス社会では限られた人材、限られた案件、分かりやすくいえば、サービス利用シェアや売上なんてものは他社との奪い合い競争に他ならない。 では、教育ではどうだろうか。教員は生徒たちに良質な知識や経験を与えたとして、自分からそれらが消えてなくなるのだろうか。いや、そんなことはない。教育というのは与えてもなくならないのである。 つまり、良質な教育を行えば行うほど、次の時代を担ってくれる素晴らしい人材が育っていくはずだし、そんな教育に少しでも携われたり、貢献できるとすれば、この上ない喜びを感じるのである。 筆者の実務家という立場は決して万能ではないが、これから先、社長業の傍らで、生徒たちに筆者から伝えていけるものがあれば積極的に伝えていきたいし、その手段として、筆者は教員という役割にも尽力していきたい。きっと、伝えることで何かが変わると信じているから。