「観光客は自宅に帰れ」 地元住民がプラカードで抗議デモ! スペインの現実は「京都」にも迫るのか? 行き過ぎた“観光公害”を考える
観光客の浪費と市民の負担
バルセロナ市が民泊を規制する意義は大きく三つある。 ひとつめは、ゆがんだ住宅市場を正常化することだ。観光客向けの短期賃貸は高収益なため、長期賃貸物件の供給を圧迫し、市民の居住権が脅かされている。約1万戸の民泊物件を通常の賃貸市場に戻すことで、特に都心部での供給増加が見込まれ、賃料の適正化が期待されている。確かに、民泊物件は住宅総数の0.77%にすぎないという指摘もあるが、都心部への影響は無視できない。 ふたつめは、都市インフラの持続可能性を確保することだ。オーバーツーリズムの問題は、住民の生活に必要なインフラを圧迫する点にある。例えば、バルセロナ市では観光客の1日当たりの水の消費量が163Lなのに対し、住民は99Lしか使っていない。 このように観光客は膨大な水資源を浪費し、環境にも負荷をかけている。交通インフラも混雑が常態化しており、市当局は観光客の利用を減らすためにGoogleマップから一部のバスルートを削除する対策まで講じている。 三つめは、地域コミュニティーを維持し再生することだ。バルセロナ市では賃貸物件の約80%が最長11か月の短期賃貸として提供されており、長期的な居住を希望する若者たちの選択肢を大きく制限している。地域コミュニティーを守るためにも、民泊の急増は防ぐべきだ。 このように、バルセロナ市の民泊規制は住宅市場の正常化、都市インフラの持続可能性、地域コミュニティーの維持という三つの重要な目的を持った包括的な政策だ。
経済効果を巡る激しい対立
こうした政策の転換は、既得権益を持つ関係者たちとのあつれきを引き起こしている。例えば、民泊事業者協会(APARTUR)は、民泊施設はバルセロナ市の住宅総数の0.77%にすぎないとして反発している。 また、カタルーニャ・ツーリスト・アパート連盟なども集会を開き、市当局の規制に正面から異議を唱えている。彼らは、カタルーニャ州には観光用アパートが約10万戸あり、その多くは年に数日しか使われないセカンドハウスだと指摘。さらに、民泊を廃止したとしても自動的に賃貸住宅に切り替わるわけではないと主張している。市当局の対応を批判し、 「住宅不足を理由に観光客を犯罪者扱いするのはポピュリズムだ」 と非難している。規制反対派の最大の論点は、 「観光業がもたらす経済効果」 が失われることだ。観光客が減れば雇用機会が失われ、最終的に市民が貧困に陥ると警鐘を鳴らしている。 では、バルセロナ市における観光の経済効果は実際どの程度なのか。市の統計によると、2023年の観光業の割合は全産業中15.7%に達しており、2018年の15.1%からさらに増加している。オーバーツーリズム対策が進んでいるなかでも、観光業への依存はむしろ深まっているのだ。 さらに2023年の観光関連事業所数は1万1038か所に上り、全雇用者数は15万5104人で前年比8.1%増となっている。 こうしたデータを見ると、たとえオーバーツーリズムが問題になったとしても、市内の雇用を支える観光産業を制限しようとする市当局の方針に反発が出るのは当然ともいえる。