監督同士が大喧嘩!? 秋ドラマ最注目『宙わたる教室』実験シーンの裏にあった、想像を超える苦労
最初の苦難は「酢を使った噴火実験」
例えば第2話の「酢を使った噴火実験」は、マグマが火口から噴き出る様子を、火口に見立てた瓶と、酢と重曹を用いて再現しようというもの。瓶に重曹を入れて酢を加え、ゴム栓をすると、重曹が発砲して酢のマグマが瓶の口から溢れ出てくる。 「原作では、米酢では粘性が足りず、瓶から溢れ出ないけど、砂糖を含んだすし酢なら溢れ出てうまくいったという展開なのですが、実際に実験すると、米酢でも溢れ出ちゃうんです(苦笑)。最初は我々のやり方が間違っているんだろうと思い、繰り返し実験しましたが、どうも米酢でも溢れ出るぞ、と。台本は原作通りに書いてあるので、どうしよう……ということになりました」(山下氏) 「それでも何度も材料の分量を変えて、繰り返し実験した」と言う山下氏は、キッチン地球科学の専門家であり実験考証の熊谷氏にも相談。アドバイスをもらいながら実際に手を動かすことで、いつの間にか酢の特性に詳しくなっていく。すると、米酢でも溢れ出るものの、米酢は噴火のように上に飛び出しにくく、粘性のある寿司酢は上に飛び出しやすいことが分かってくる。 トライアンドエラーを繰り返したことで、酢が溢れる実験ではなく噴火のように飛び出す実験にすることで、ドラマとしても見栄えするシーンに着地させることができた。 ドラマはドラマとしてちゃんと成立させながらも、科学的にも成立させる。そのバランスに苦心したという。 「正直、ドラマのためだけだったら、それらしく見える画だけ撮れれば良いわけですが、『宙わたる教室』は科学を扱ったドラマなので、可能な限り本物を見せたいということで、山下さんにはかなり頑張っていただきました」と制作統括の神林伸太郎氏は振り返る。
酸化鉄だけでできてしまった「火星の夕焼け」
さらに、実験は回を重ねるごとに“大物”になっていく。例えば、水がたっぷり入った水槽にライトを当てて火星の夕焼けが青いことを再現する実験。原作では火星の塵の代わりに酸化鉄を水槽に入れてもライトの灯りはまだ青くならない。SF小説の好きな佳純(伊東蒼)が火星の土について詳しく調べると、酸化鉄以外にも様々な鉱物が土に含まれていることがわかり、調べた成分に近い土を水槽の水に混ぜることで最終的に青く見えるようになる。 「ところが、実際にやると、酸化鉄を入れただけで青くなっちゃって、実験が成立しちゃうんです。それでどうしようかということで試行錯誤しました。最終的には酸化鉄に行き着くまでに様々な土を試す苦労を長めに見せ、酸化鉄だけを使った実験は見せずに、酸化鉄を含む火星の土に近い成分を使ったら青くなったというところに落とし込んだんです」(山下氏) 水槽の水を青くすることをゴールとせず、火星にはどんな成分があるかを理解することが大切という点に眼目を置いて物語のラインを変更。最後に青を1回見せることで、実験に嘘はなく、映像としてもむしろわかりやすくなっている。 また、山下氏メイン演出の第6話では、火星の重力を再現するための「重力可変装置」を作った。モデルになった大阪府立大手前高校定時制と大阪府立春日丘高校定時制の科学部が作った装置の資料をもとにして、米村でんじろうサイエンスプロダクションと共に忠実に再現したと言う。