原菜乃華=有馬かなが成立した理由 実写版『【推しの子】』で示した“磨き抜かれた真価”
年末年始に劇場をにぎわせるであろう映画が相次いで封切られ、今期のドラマが次々と最終回を迎えているいま、世には“話題作”が溢れている。その中で何が一番かと聞かれたら、答えは観客/視聴者ごとに異なるだろう。けれどもいまここで私が問われたならば、ドラマはドラマ『【推しの子】』(Prime Video)と、映画は『【推しの子】-The Final Act-』と答える。次代を担っていく若い才能たちが結集している作品だからだ。とくに、元天才子役・有馬かなを演じている原菜乃華がすごい。彼女のパフォーマンスに触れるためだけでも、一見の価値ありなのである。 【写真】B小町としてパフォーマンスを披露する有馬かな(原菜乃華) 念のため説明しておくと、ドラマ『【推しの子】』と映画『【推しの子】-The Final Act-』は、ひとつの“シリーズ”としてつながっている。物語はドラマからはじまり、映画で完結する構成の作品だ。広く知られているとおり、原作マンガをアニメ化したものはすでに第2期まで放送されており、第3期の制作が決定。さらに現在は2.5次元作品として舞台化もされている。つまり『【推しの子】』とは、幅広い層に開かれた大人気タイトルなのだ。 実写化が発表されたとき、非常にワクワクしたものである。なぜなら描かれているのが「アイドル」や「俳優」の世界をモチーフにしたものだから。それぞれの役を演じるプレイヤーたちは、現実世界で味わう喜びや苦しみを作品をとおして再び体験することになったのではないだろうか。これは実写でしか成し得ないものであるいっぽう、俳優という職業が自身の心と肉体をある種の道具にしなければならない以上、大変な困難があるはずだということは記しておきたい。大人気タイトルに挑む困難があるのも言わずもがなだ。 しかしそんな困難に、『【推しの子】』に集った若い俳優たちは挑み、私たちを魅了するに足る作品へと昇華させている。とくに感銘を受けたのは冒頭に記しているとおり、原菜乃華の演技に対してだ。いや、もっというと、有馬かなという役への、『【推しの子】』という作品に対する彼女の姿勢に対してである。 原が演じる有馬かなは、かつて「天才子役」と謳われた俳優であり、ルビー(齊藤なぎさ)、MEMちょ(あの)とともにアイドルグループ・B小町を結成して高みを目指していくというキャラクター。“元天才”だった過去と現在の自分の価値に苛まれながら、俳優としてもアイドルとしても成長を遂げていく。 原自身も子役期からキャリアをスタートさせた俳優であり、有馬を演じるには適任だと思った。アイドルの隠し子として生まれたアクア(櫻井海音)とルビーは複雑なバックグラウンドを持った難役だが、俳優として低迷している有馬はさまざまな人間くさい感情を抱えた人物で、いかにこれに説得力を与えられるかがカギとなってくる。彼女は特別な世界にいきる人間だが、他者の才能に対する嫉妬をはじめとする感情は、誰しも一度は抱いたことがあるものだろう。これを生々しく体現することが、フィクショナルな作品である『【推しの子】』にリアリティを、もっといえば、「アイドル」や「俳優」というものに身近さを与えることになるのである。