原菜乃華=有馬かなが成立した理由 実写版『【推しの子】』で示した“磨き抜かれた真価”
『【推しの子】』で原菜乃華が担った“バランサー”の役割
本作の中心を占める若い俳優たちは、それぞれに才能はあれど、演技の経験が豊富だというわけではない。若くして多くの場数を踏んできた原が有馬のポジションに配されているのは、やはりベストキャスティングだといえるだろう。しかも、有馬はセリフ量が多い。“元天才”だった過去が現在の彼女のコンプレックスになっているからか、彼女は自意識過剰で、やたらとひとりで言葉を発し続けることが多々ある。ひとりで“ノリツッコミ”をすることもしばしばだ。こういったものを演じるのは、時間をかけて体得した技術がなければ成立しないし、ときとして感情のストッパーを外すことも必要になってくる。後者に関しても、豊富な経験なくして実現は難しいだろう。 それでいて原のパフォーマンスは、有馬の感情を爆発させるだけではなく、作品全体とのバランスを強く意識しながら生み出しているものだと感じる。いや、そうでなければ、ときとして有馬の暴走は作品そのものの印象を左右してしまうことにもつながりかねない。独りよがりな演技は作品を壊してしまうものだ。実写版『【推しの子】』が成立していることの大部分は、原菜乃華が有馬かなを演じていることにあると私は思うのである。何事も続けるのは大変だ。しかし続けたその先に、一朝一夕では得られない、磨き抜かれた真価が現れる。これを原はスクリーンにも刻んでいる。 2025年は朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)をはじめ、映画『ババンババンバンバンパイア』や『見える子ちゃん』といった出演作が世に放たれることになる。『【推しの子】』での好演は、未来につながっているはずだ。
折田侑駿