公認野球規則にない「マナー」 選手のプレーを妨げることはご法度!!/元パ・リーグ審判員 山崎夏生に聞く
【山崎夏生のルール教室】 【問】前回の本欄では、球場のフェンスとは選手と観衆を隔離する「結界」であり、そこを超えた客席内では選手はプレーを妨げられても仕方がない、という解説がありました。ということはワールド・シリーズ第5戦で、ライトへのファウルフライをフェンス際で捕球したムーキー・ベッツ選手(ドジャース)のグラブは明らかに観客席内にありましたから、アウトを阻止しようとしたファンの行為は正当化されるのでは? また日本シリーズの第3戦では東克樹投手(DeNA)が投球直前のネット裏観客席からの指笛をやめてもらいたいと球審にアピールしました。この行為を禁止するルールはあるのですか? 【選手データ】東克樹 プロフィール・通算成績 【答】まずベッツ選手の件ですが、これは当然ながらライト外野審判はアウトを宣告しました。なぜなら観衆のこの妨害は完全捕球後だったからです。捕球した位置はフェンス際上空で微妙でしたが、いかにその後にグラブが観客席内に入り込もうとも捕球後ですから、それが覆ることはありません。もしもスタンド内に差し入れたグラブでの捕球前でしたら妨害されようとも選手は泣き寝入りするしかないのです。かつてイチロー選手(当時マリナーズ)が同じようなプレーに憤然としたことがありましたが、判定は「ナッシング」(妨害なし)だったのもやむなしです(定義15・原注)。とはいえ、こういった行為はマナーとして許されるものではありませんから、球団あるいは審判の判断で観衆は退場を命じられることもあります。 日本シリーズでの指笛の件もマナーの問題です。公認野球規則には禁止事項は書かれていますが、やるべきではないというマナーについては書かれていません。これを規制するのは12球団での内規や監督申し合わせ事項、各球場にある観戦ガイドなのです。横浜スタジアムでは笛や太鼓での鳴り物、指笛での応援は禁止されていますが、みずほPayPayドームではOKでした。ということで直後の場内アナウンスでは「試合進行の妨げになる行為はご遠慮ください」と流れたのみでした。 当事者の東投手にとっては投球直前に指笛を吹かれるのは慣れていませんし、集中力も削がれたのでしょう。例えばサッカーのPK、相撲の立ち合い、ゴルフのパットなどではその瞬間に観衆は息を潜め見守ります。アマチュア野球でも投球直前のベンチからの応援や指示は禁じられています。観衆も選手が最高のパフォーマンスを発揮できるよう心掛けることを重々知るべきです。
週刊ベースボール