印刷物なのに筆跡が盛り上がる…デジタルイラストが「リアルな場」にもたらす「感動体験」
これらの総合ディレクションと制作を手がけたのが、東京都中央区のデジタル印刷工房「フラットラボ」だ。どういう技術なのかを、同社プロデューサーの大池陽子さん(34)に聞いた。
「UV印刷といって、印刷面にインクをのせ、紫外線LEDで硬化させる技術です。インクを積層させ、表面にツヤを出したり、逆にマットにしたり、作家の希望に応じて多彩な表現ができます」と大池さん。「普通のインクジェットは紙にしか印刷できませんが、UV印刷は、表面が平滑であればアクリルでも金属でもキャンバスでも、どんな素材にもプリント可能です」
同社がswissQprint社(本社スイス)の最新鋭プリンター「Nyala3」を導入したのは18年。日本最初の1台だった。元々は屋外写真展のためだったが、20年秋に人気イラストレーターの米山舞さんがこの技術に関心を持ち、展覧会用にプリントを依頼してきたことが大きな転機となった。
「コロナ禍が始まった年で、同人誌イベントが次々と中止になり、イラストレーターさんもお困りだったと思う。我々も広告の仕事が減って、どうしようかと話していました」とフラットラボのグラフィックグループリーダー、坂口隆介さん(41)は話す。「そんな時に米山さんとの出会いがあり、展覧会も注目されて、イラストレーターさんからの仕事が殺到するようになりました」。同社は今や、高付加価値デジタルイラスト印刷のパイオニアとして名をはせる。あのコロナ禍を機に、こんな新しいアートビジネスが生まれていたとは驚きだ。
スマホ越しとは違う感動体験を
「フラットラボさんの印刷物を展示会などで見る機会が多く、すごく興味を持っていました。個展が決まった時、僕の方から『組みたい』とお願いしたんです」と、LAMさんは話す。約1年間にわたり、同社プリンティングディレクターの米村友希さん(27)と綿密に打ち合わせを重ねた。
「まず僕がやりたいことを提案し、技術的に相談させてもらいましたが、後半に展示されているオリジナル作品では、印刷ディレクションからインスピレーションをもらい、僕の方が影響を受けた部分もかなりある。すごい楽しい空間ができました」