印刷物なのに筆跡が盛り上がる…デジタルイラストが「リアルな場」にもたらす「感動体験」
デジタル技術の進化で、創作活動のハードルが下がったことも同人誌を盛り上げた。しかし、同人誌文化の主役はあくまで「リアルなモノ」「リアルな場」なのだ。(文化部 石田汗太)
デジタルイラストの進化
「コロナ明け直後は、コミックマーケットを始め、どの即売会もなかなか人が戻らなかったので、同人誌市場は以前より縮小したと思っていました。でも、11月17日に東京ビッグサイトで開かれた『コミティア150』は、過去最高に盛り上がっていた。僕も一般参加していましたが、ちょっと考えを改めましたね」
こう語るのは、京都芸術大学准教授でイラストレーターの虎硬(とらこ)さん(38)だ。2019年に出した「ネット絵史 インターネットはイラストの何を変えた?」(ビー・エヌ・エヌ新社)で、1990年代から現在までのデジタルイラストの進化を解説した。
90年代以後の同人誌文化は、漫画のみならず、イラストの隆盛を抜きに語ることはできない。2000年代に国内メーカーによる漫画制作アプリが登場したことや、イラストSNS「ピクシブ」が開設されたことなどで、デジタル絵は身近になった。今やプロ漫画家の間でもデジタル作画は一般的になっている。
虎硬さん自身、10年頃まで漫画やイラスト分野で同人活動をしていた。
「実はこの本の前身は、12年に発行した『ネット絵学』という同人誌でした。評論の同人誌は普通売れないんですが、僕はこれをまとめたかったし、面白いという自信もあった。最初1000部刷った時は友人から『正気か』と言われましたが、完売しました。それでも赤字だったんですが。結局、続刊も出して2000部以上売れました」
デジタル絵に「これが印刷?」
虎硬さんが、即売会以外に今注目しているのは、イラストレーターによる個展の盛況ぶりだ。「デジタルで描いた絵をプリントして展示するのですが、非常にアート性が高く、若いファンを集めている。リアルイベントの新しい流れですね」
ちょうど、ゲームキャラクターやVTuberのデザインで人気のイラストレーター、LAMさんの個展「千客万雷」がアニメイト池袋本店で開かれていたので見に行った。最後のコーナーがオリジナル新作21点の展示だったが、なるほど、油彩やアクリル画のように筆跡が盛り上がり、質感も多彩で、「これが印刷物?」とうならされた。