教育虐待のほとんどは「わが子のため」から始まるが…中学受験は「かわいそう」なことなのか?【臨床心理士が解説】
日本経済への不安から、わが子に“生き抜く力”をつけるべく中学受験を選ぶ家庭が増えています。しかし、世間からは「中学受験なんて子どもがかわいそう」という意見もたびたび聞かれ、「このまま受験させてよいものか」と悩む方もいるでしょう。中学受験を教育虐待にしないためには、どうすればよいのでしょうか。臨床心理士・真田涼氏の著書『中学受験 合格メンタルの作り方』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
中学受験は「かわいそう」なのか
中学受験をしないお子さんやママ友などから「中学受験をさせるなんてかわいそう」と言われたという声を耳にします。果たして、中学受験はかわいそうなことなのでしょうか? 「教育虐待」という言葉が最近よく使われていますが、これは、2011年に日本子ども虐待防止学会で報告された言葉です。同学会は、教育虐待を「子どもの受忍限度を超えて勉強させること」としています。また、近年では、勉強だけでなく楽器やスポーツなどの習い事を含む教育全般のことを指すようにもなってきています。 ◆教育虐待のほとんどは「わが子のため、良かれと思って」から始まる 「教育虐待」が起きる要因は2つあると言われています。 1つ目が、中学受験の過熱化です。少子化にもかかわらず、2024年の首都圏の私立・国立中学受験者数は52,400名と前年から微減ですが、受験率は過去最高の18.12%となっています。子どもの数が減っていることと、少しでも良い学校に入れたいという思いから、1人の子どもに過度な期待やお金を掛けることで、教育虐待につながっているとも言われています。 もう1つは、高偏差値の大学に入れば安泰という時代ではなくなったことがあげられます。そのため、何がお子さんの将来のためになるのか分からないという不安から、勉強以外にも、早期から、英語やスポーツ、楽器、プログラミングなどの習い事に通わせ、お子さんに求めることが増えたということも背景にあると言われています。 「教育虐待」を行ってしまった親御さんは、虐待をしようと思ってやっていたのではなく「我が子の将来のために」と、良かれと思ってやっていたというケースがほとんどです。「教育虐待」は決して他人事ではなく、『我が子の幸せを願っている』どのご家庭にも起こり得るということを心の片隅に留めておいていただきたいのです。 ◆勉強だけでなく、睡眠・食事・休憩も中学受験の一部 「子どもの受忍限度を超える」というのは、やりすぎるということです。「教育虐待」にならないようにするには、時間で切ることがポイントです。何ページまで、理解できるまで、ミスがなくなるまでという区切り方をすると時間が長くなりやすいです。長時間にわたって勉強や練習をしていると、疲弊し、集中力や記憶力を欠いてしまいます。そのことがミスを誘発するという悪循環に陥りやすくなります。長時間勉強するよりも、適切な時間で区切り、しっかり睡眠をとることで記憶が定着し、食事や休憩を入れることで集中力も高まります。つまり、睡眠や食事、休憩も勉強の1つなのです。このことをしっかり意識して取り入れることで、「教育虐待」は防げます。 ◆親側の「限界」にも気を配る 育児をしていて、「子どもに少し言い過ぎてしまった」「夫婦で意見が分かれて口論になった」なんて経験ありませんか? 「プロの心理士さんだから育児も中学受験も上手にやっていそう」と言われることもあるのですが、私は、そんなことは決してありませんでした。子どもの幸せを願うあまり、子どもやパートナーに高い理想を求め、それに応じてもらえずキツイことを言ったりして、後で自己嫌悪に陥るということがよくありました。 上の子が小6のある日、仕事のお昼休みに先輩の臨床心理士に「何度言っても、子どもが学校の夏休みの宿題をやろうとしなくて」と軽く愚痴を言ったら、「真田さんは、一生懸命に育児しているから、これあげるね」と言って、チョコレートをくれたことがありました。軽い気持ちで愚痴を言っていたのですが、チョコを口に入れた途端に、涙が止まらなくなり、自分でも驚いたという経験があります。 一生懸命になりすぎると、お子さんやパートナーはもちろんのこと、自分の受忍限度を超えていることにも気付きにくくなります。それが「教育虐待」につながってしまうと言われていますので、自分が「少し疲れたな」「イライラしているな」と感じていたら、好きな「メンタルケア活動(以下、メン活)」を取り入れて、まずは一息つきましょう。 また、自分では受忍限度を超えていることには気付きにくいので、パートナーやお子さんが、「少し一生懸命になりすぎている」「頑張りすぎている」と感じたら、是非、「メン活」に誘ってあげて、一緒に行っていただけたらと思います。 <POINT> ●お子さんが受験を辞めたいと言ったら、この先高校受験が避けられないこと、お子さんの「好き」を実現する学校などについて話し合ってみましょう。 ●受忍限度(がまんの限界)を超えた勉強をさせすぎないこと。食事や休憩も、受験のうち。