【相撲編集部が選ぶ名古屋場所7日目の一番】攻めも攻めたり、受けも受けたり。熱闘の末、宇良を退けた照ノ富士が7連勝
魂の交歓をしたい心境にさせてしまうところが、相撲のすごさ
照ノ富士(寄り切り)宇良 まるで、12ラウンドを戦い終わったボクサー同士のようだった。 勝負が決まった青房下。持てる力を使い果たした……という表情の宇良を、横綱照ノ富士が相手の脇のあたりに添えた右手を広げていたわり、宇良が一度、二度と頭を下げた。 12ラウンドを戦い切らずとも、わずかに30秒あまりの攻防を経ただけで、この魂の交歓をしたい心境にさせてしまうところが、相撲のすごさだ。 持てる技と力を出し切って攻めた宇良、そしてそれを受け切った照ノ富士。この日の相撲は、二人が勝負あったのあとにそんな心境になったのもわかる白熱の攻防だった。 立ち合いから左に回ってのとったり、次は大きく右へ飛んでのイナシ。右を差したところで回りながらの肩透かし。さらにその次は頭を相手の左脇に潜り込ませて、反り技をにおわせる。そのあとは右の廻しを取っての出し投げ……。この日の宇良は、とにかく横綱の体勢を崩して慌てさせようと、左へと右へと動きながら、止まることなく技を繰り出し続けた。 しかし、「落ち着いて、圧力を掛けようとしか思っていなかったので。押されることはないなと思っていたので、じっくり構えていきました」という横綱は、最後まで落ち着いていて、崩れることはなかった。 最後は右を差し、その差し手で、たてミツより奥の部分の廻しをつかんで宇良の左をバンザイさせて捕まえ、寄り切った。どんなに動かされても、不安のあるヒザの構えを崩さず、下半身の動きを細かいものに抑えながら攻めに対応した、横綱のうまさと冷静さが光った。 これで初日から7連勝。場所の序盤は自ら攻める立ち合いに活路を見出していた今場所の横綱だが、きのう翔猿、きょうの宇良と、攻める立ち合いとは別なものが要求される、動きのある2人を退けたことで、一つのヤマは越えたといえるだろう。後続とはすでに2差。後半戦へ、スタミナの不安はなくはないが、アクシデントさえなければ、もはや10度目の優勝の可能性はかなり高いといえる。 あすが折り返しという早い段階で、優勝争いの灯は消えたような感じになってしまった今場所だが、あすは3月場所に新入幕優勝の快挙を達成し、以降休みが続いていた尊富士がいよいよ本場所の土俵へと復帰、いきなり有望株の阿武剋と対戦するという興味深い一番もある。さらに幕内後半では、勝ち越しを目指しながらここまで2勝5敗のカド番の貴景勝と、二ケタを目指しながらここまで4勝3敗の霧島の「大関(維持あるいは復帰)のためには絶対に負けられない戦い」も。一番一番に目を凝らせば、興味はまだまだ尽きない。 優勝争いの灯が消えそうでも、一番一番の内容で喜ばせてくれればファンはうれしい。この日の照ノ富士-宇良戦のように、攻めも攻めたり、受けも受けたりの攻防の末、互いが魂の交歓をしたくなるような相撲が少しでも多ければ、ファンの満足度は、下がることはないのだ。 優勝争いが凪の状態に入った中、熱戦となった結びの一番に、そんなことを再認識した7日目だった。 【相撲編集部が選ぶ名古屋場所7日目の一番】いよいよ「本命」が浮上? 豊昇龍が元大関を投げ捨て、錦木らとトップに並ぶ 文=藤本泰祐
相撲編集部