緑魔子が語る増村保造監督「盲獣」秘話 巨大女体像上での撮影は…
国立映画アーカイブで開催中の「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」の招待作品部門「生誕100年 増村保造新発見!~決断する女たち~」で、「盲獣」(1969)4Kデジタル版修復の日本初上映が9月7日あり、船越英二扮する彫刻家のモデルを演じた緑魔子が上映後のトークに登壇し、当時の思い出を語った。 【フォトギャラリー】緑魔子のトークの模様 本企画は、8月25日に生誕100年を迎えた増村保造監督の未配信作品8作品を含めた13作品を紹介する特集上映で、「盲獣」は江戸川乱歩の同名小説が原作。視覚障害を抱え、女体に執着し、実母と共謀しモデルとなる若い女性をアトリエに拉致して作品を制作する彫刻家の蘇父道夫(船越英二)の新たなターゲットとなったアキ(緑魔子)と道夫の逸脱した愛を描く。 この日のトークは、第5回大島渚賞を受賞し、増村保造監督の大ファンであるという工藤将亮監督が聞き手を務めた。 客席からの大きな拍手で迎えられ、最前列の熱烈なファンから花束を渡されて登壇した緑。物語の設定も、撮影も真冬だったことから「すごく寒かった」そうで、当時使われていたハクキンカイロ(オイル式のカイロ)を「ビロードの袋に入れて腰骨に当てていたんですけど、いっぱいやけどしました」と明かす。 大映のスターであった船越との共演を「もう当時は大俳優だったので、大尊敬です。あまり話はしませんでした。逃げ回ったり、触られたり(のシーンが多かった)で、あちらは大ベテランですし」と振り返り、「盲獣」と同じく変質的嗜好を持つ男性を描いたウィリアム・ワイラー監督の「コレクター(1965)」を挙げ、「テレンス・スタンプが大好きだったから、テレンス・スタンプみたいだったら……(笑)」と本音を吐露。 「盲獣」撮影時には、ほぼリハーサルはなく本番、緑の出演シーンは順撮りだった。とりわけ印象に残っているのが、彫刻家の道夫が作った巨大な女体像の上でのシーンだったという。 「(撮影に)初めて入ったときに、ステージに大きな上向きとうつ伏せの女体があったので、スタッフさんと一緒に『増村さん、何考えているんだろう?』そんな感じでした」と振り返り、船越とのシーンはワンカットの長回しだった。「(女体像は)ざらざらしていて、乳房など部分的にはふわふわしていた」「ものすごく走りにくいんです。今思うと、増村先生はああいう大きい女体につぶされて窒息死したかったんじゃないのかしら(笑)」と語る。「今考えると、(演じたアキは)男の人から見た女で、彼女はすごくかわいそう。『痛い』という場面、私は増村先生より普通だから……脳で考えると(SMやフェティシズムの表現に)私にはわからない部分もあるのかも」と自身の考えを述べた。 緑にとって、「盲獣」は「大悪党」(68)に続き2作目の増村監督の作品。「とにかくインテリでシャイで、エネルギッシュでエゴイスティックで……。『ディテール、ディテール』という言葉が私的な会話でも耳に残っています。ちょっとした仕草や行為も拡大して考えるような繊細さ。私にとってものすごくミステリアスな人だった」と増村監督の人となりを明かす。 そして「大悪党」からの増村監督との様々なエピソードを披露。「(増村)先生と一度一緒に映画を観たことがあって、それが『男はつらいよ』で。『僕はああいうの嫌い』っておっしゃってたんですけど、私は先生の肩にもたれて観て、その肩の重みが『なんとも言えず良かった』と言われた」「『盲獣』はあまりにも当たらなかったのでかわいそうでしたが、後で話題になったので、(映画化した時代が)早かったんだな」と当時の思い出を赤裸々に語り会場を沸かせた。 聞き手の工藤は、増村監督が「からっ風野郎」(60)で、映画初主演でヤクザを演じた三島由紀夫を怒鳴ったという逸話を挙げ、緑に対してはどうだったのかを問う。「私が『大悪党』に出る前から怖い監督だと聞いていましたが、すごく優しくてびっくりしました。三島さんを怒鳴ったのは、『彼は映画俳優になりたかったから、映画俳優として扱っただけだよ』と言っていました。演技ができなきゃ怒鳴った方がいいし、おふたりとも東大の法学部を出てらっしゃって、ふたりにはわかっていることだから大丈夫、そんな感じでした」と語る。 そのほか、大島渚監督、森崎東監督らとの思い出も語りながら、撮影に追われていた日々を振り返り、現在を「若い時の自分って、もう覚えていないし今と完全に違う。自分が絵を描く人だったら違うかもしれませんが、私は絵の具みたいな存在だから、持ってるものは通底してると思うけれど、自分の人生が何かわからない。山田洋次さんも森崎さんも増村さんも大島さん(との仕事)も全部違う。反射体みたいに、この人が見る私、あの人が見る私、そんな風にそれぞれと違うのだと思う。『あんた誰?』って聞かれたら、『わかりません』と言うしかないし、どれも自分」と、様々な人間像を豊かに体現してきた俳優人生をしみじみ述懐した。 今後の「生誕100年 増村保造新発見!~決断する女たち~」上映では、原田美枝子、梶芽衣子のゲスト登壇が予定されている。「第46回ぴあフィルムフェスティバル2024」は、9月7日~21日に国立映画アーカイブで開催。※月曜休館