北朝鮮内部で混乱の兆し 相反する国会と軍の動き、迷走する金正恩氏の発言
公開処刑の報道相次ぐ
韓国敵視政策は元々、北朝鮮の人々が韓国文化に染まり、北朝鮮指導部の言うことを聞かなくなっていることへの危機感から生まれた。韓国政府関係者は「韓国を敵だと決めつけたのは、市民を厳しく取り締まるための方便だった」と語る。北朝鮮では今年に入り、公開処刑が行われたとの報道が相次いでいる。軍はこの雰囲気に便乗し、勢力を伸ばしてきた。北朝鮮メディアは8月には、韓国に近い前線部隊に配備するための、新型の戦術弾道ミサイルを搭載する移動式発射台250両が軍に引き渡されたと報じていた。軍は、韓国敵視政策の停滞は、自分たちの存在価値を損ねることになると判断しているだろう。 もちろん、北朝鮮軍の発表は、敵視政策を巡る憲法改正が報道されなかったことを受け、韓国側に「敵視政策が変更された」と誤解されないための方便だった可能性はある。やはり、その場合でも、敵視政策の憲法への盛り込みができなかったか、発表できない事情が生じたと考えられる。北朝鮮では多くの人々が、貧困から抜け出す最後の手段として南北統一に期待をかけてきた。韓国との取引で利益を上げて来た関係機関も多い。統一を希望してきた在日朝鮮人の北朝鮮へのの自由な入国も制限されたままだ。突然の敵視政策が北朝鮮の内部に混乱をもたらしていると指摘する専門家は少なくない。 そして、北朝鮮を率いる最高指導者の金正恩氏自身の発言が揺れている。金正恩氏は2日、核の先制使用に言及した。韓国で前日に行われた軍事パレードで、弾頭重量約8トンの韓国のミサイル「玄武5」が公開されたことに反応したとみられる。9月末にイスラエル軍が、地下約18メートルの施設にいたイスラム教シーア派組織ヒズボラの指導者ナスララ師らを殺害した際、重量約900キロのミサイルを約80発使ったという。金正恩氏も強力なバンカーバスターである玄武5の登場に神経質になったのだろう。 ただ、金正恩氏は続く7日の演説で、核の先制使用を改めて強調する一方、「われわれは正直、大韓民国を攻撃する意思は全くない」とも語り、日米韓の専門家を訝しがらせた。一部では、過激な発言が続いたことによる緊張の高まりを懸念する北朝鮮内部の声に配慮したのではないか、という指摘も出ていた。 現時点で、北朝鮮内部でクーデターや暴動などの兆候は出ていない。すぐに北朝鮮が崩壊することは考えにくいが、少しずつ、北朝鮮内部に動揺が広がっている可能性はある。
牧野 愛博