日本は「経営者不足時代」に突入する。国内M&A促進が重要なこれだけの理由
「人手不足時代から経営者不足時代に」
── 提言のM&Aへの言及は、スタートアップの事業買収というより事業承継に使う意図がより強いと読み取れます。 M&Aも増えていますが、(国内の現状は)大企業が中小企業もしくはスタートアップを「買う」ことが主になっています。 (一方で)Small to Small(編注:中小同士の買収または事業継承)は増えていません。 これからは10人と10人の会社が20人になる、50と50が100になる……どんどん大きくなるという状況を増やしていかないといけません。 (なぜなら今後、日本は)今200~300万ある会社の経営者が圧倒的に足りない時代がやってきます。 それにもかかわらず、「M&Aがやりづらい」状況を放置しておけば、日本の技術や雇用を支える中小企業のノウハウが闇に消えてしまう。 安全にそうしたノウハウを残していくためには、早い段階で手を打たないといけません。 Small to Smallを阻害している要因の1つは、「経営者保証」。今、新しく貸し出しをする金融機関が、スタートアップを含めて「経営者保証なし」でできるようにする仕組みがだいぶ浸透してきています。 ただ、既存で経営者保証を持っている会社を買収・継承してしまうと、そのまま経営者保証がくっついてきてしまう。ここはやっぱり抜かないといけません。 もう1つは、金融機関の貸し出しがSmall to SmallのM&Aでもつけられるように、政府が促すようにします。 実は、税制上の強力な支援策もあります。今回法律が通るので、(2024年の)夏以降になって適用になると思いますが、年間3社以上連続でM&Aをすれば、ものすごい税制優遇をつけます、と。これもM&Aを促進するためです。 ── スタートアップの出口(EXIT)戦略がIPOに偏って歪(いびつ)だったのは、制度の問題だったと結論づけているのでしょうか。 スタートアップにおいては、制度面の問題もあったと思います。 例えば、ストックオプション(SO)の問題。スタートアップが未上場時にSOの権利行使がしづらい状況が確かにありました。 そうすると、「とにかく早くIPOをして、SOを株に変えて現金を手に入れる」というゴールを目指すようになってしまいます。 ただ、令和6年度税制改正で未上場時の権利行使がしやすくなったため、早くIPOをしなきゃいけないというプレッシャーが非常に少なくなりました。 ── 他方、地方の中小企業の経営者は、M&Aをして企業を大きくするという発想が、あまりなかったと? そういう状況は確かにあると思います。なぜなら、(これまでは)人材は十分に確保でき、一定の利益が得られる経営ができた時代だったからです。 (しかし)これからは圧倒的に「人手不足時代から経営者不足時代」になります。