日本は「経営者不足時代」に突入する。国内M&A促進が重要なこれだけの理由
自民党の「新しい資本主義実行本部 経済構造改革委員会」が5月末、新しい資本主義の進展に向けた提言を取りまとめ、岸田文雄首相が受け取ったと各紙が報じた。 【全画像をみる】日本は「経営者不足時代」に突入する。国内M&A促進が重要なこれだけの理由 提言の内容は多岐にわたるが、経済・産業分野で印象深いのは、国内企業におけるM&A(合併・買収)の促進への言及が多かったことだ。また、新たなビジネス領域として「ヘルスケア」分野も挙げている。 自民党は2024年現在の日本の産業を取り巻く課題とビジネスチャンスはどこにあると考えているのか。 新しい資本主義実行本部事務局長を務める小林史明衆議院議員に話を聞いた。 (取材日:2024年6月5日、聞き手:伊藤有 Business Insider Japan 編集長、文・構成:小林優多郎)
「日本のスタートアップの出口は歪」
── 提言のなかで、「M&A」(買収・合併)という言葉が「IPO」や「上場」より多いほど頻出していたことが印象的でした。提言における自民党の課題認識とは? 日本の経済構造を変えるのが今回の提言のポイントです。 平成の約30年間、給料は上がらず、新しい成長産業も生まれず、日本が成長したかどうか疑問が残る。 そんな中で、国内人口が「増える時代」から「減る時代」へ、日本はいわゆる「成熟国」に変わりました。 人件費も物価も、諸外国に比べれば高い。(企業は)「ものを作るなら海外」という意識になり、海外の設備投資に力を入れるようになりました。 ただ、国内を見てみると「増える時代」の商習慣が残ってしまい、大企業は下請けのような企業に毎年値下げを求める仕組みが続いています。 日本は中小企業の雇用が7割を占めています。この7割の人たちの給料が「値下げの習慣」により上がらなければ、個人消費も増えるわけがありません。 結果、国内の個人消費が落ちて、新しいモノが売れない。すると、大企業は国内に投資せず、海外に投資を回し、また国内の消費が冷え込む。こうした「デフレのスパイラル」が回っていました。 それを逆回転させよう、まずは多くの人の手取りを増やそうというのが、新しい資本主義のアプローチです。 ── 提言ではM&A促進に直接的に言及していて、一定のボリュームを割いています。 その上で、提言ではM&Aを推進している。その理由は2つあります。 1つは、ご質問の趣旨であるスタートアップの観点。日本では、スタートアップの出口は9割IPOで、1割がM&Aという状況。諸外国と比べると、「ものすごくバランスが悪い」状態です。 IPOを減らそうとは考えませんが、事業継承や売却、オープンイノベーションを増やしていくことを推進しようということです。 これはスタートアップだけではなく、地方の中堅中小企業、大企業を含めて既存産業にスタートアップがインパクトを与えていく1つの方法だと思っています。 もう1つは、「日本の産業はどういう成長の仕方をするものなのか」か(という視点)。 これは大きく分けて「M&Aをしていき収益性を高めていく」か「M&AをせずにAIやロボティクスで効率化を図る」という2つのルートしかありません。 後者については例えば、私の地元のお茶屋さんはECサイトを通じて海外で抹茶がものすごく売れています。小規模のまま収益性を高めることもできるということです。 つまり、M&A促進はスタートアップの出口の不均衡を正す目的もありますが、既存の産業構造を変えていくことが重要になっていきます。