画期的な自閉症チェックアプリを開発、診断が遅れがちな問題解決への助けとなるか
自閉症のスクリーニング検査に活用、早期の発見と支援につながると高まる期待、米国
新しいデジタルスクリーニングツールの活用により、子どもの自閉スペクトラム症(自閉症、ASD)を速やかに診断できるようになるかもしれない。機械学習を使って子どもの行動のさまざまな側面を分析し、自閉症である可能性が高いかどうかを判定するアプリ「SenseToKnow(センストゥーノウ)」を開発したという論文が、2023年10月に医学誌「Nature Medicine」に発表された。475人の子どもで検証したところ、最終的に自閉症と診断される子どもを高い精度で予測できるという。 ギャラリー:自閉症を抱えて大人になるということ 米国疾病対策センター(CDC)の最近の推計によれば、米国の子どもの36人に1人(2.8%)が自閉症だという。有病率はここ数十年で増加している。原因は、自閉症の症状がよく認識されるようになったこととスクリーニング検査(病気の疑いのある人を見つけるための検査)の改善にあると考えられているが、それでもなお、自閉症の子どもをもつ家族は診断の遅れなどの問題に直面している。 また、女児や少数民族の子どもについては、適切な専門家にアクセスできないことや症状の個人差などにより、診断時期がさらに遅れることが多い。 現時点では自閉症は血液検査などでは診断できず、専門家が子どもの発達歴や行動を評価して診断している。「ほとんどの子どもについて、行動観察以外の客観的なテストはありません」と、論文ので筆頭著者で、米デューク大学の心理学者であるジェラルディン・ドーソン氏は言う。「親の報告だけが頼りなのです」
適切なタイミングでの診断を妨げる要因
ドーソン氏が言うように、親は子どもの異変を察知する能力に長けている。しかし、そうした懸念を医師に正しく報告する能力は別だ。自分が観察した状況をうまく整理したり、適切な言葉で表現したりするのは非常に難しい。自閉症の症状の出方には個人差があり、初期症状が現れる時期もさまざまであることも、報告をさらに難しくしている。 親が小児科医に懸念を訴えられたとしても、小児科医が多様な症状から自閉症を疑うのに必要な知識を持っていなかったり訓練を受けていなかったりすることは少なくない。 現在、米国で乳幼児の自閉症のスクリーニングに主に使われている「M-CHAT-R/F」というツールは、子どもの行動や発達の目安に関する質問に親が答えるチェックリスト形式になっている(編注:M-CHAT(乳幼児期自閉症チェックリスト修正版)は日本でも1歳半健診などで広く使われている)。この後さらに小児科医からの質問もある。 M-CHAT-R/Fは、静かな研究室では高い精度で自閉症の子どもを特定できるが、多くの患者がやってくる小児科医院で実施すると精度が下がり、なかでも女児や、黒人やヒスパニック系の子どもでの精度は大きく下がる。 米国では「スクリーニングで陽性と判定された子どものうち、早期介入を受けられるのはわずか半数です」と言うのは、米ペンシルベニア大学の精神医学教授で、自閉症に対するケアなどへのアクセスにおける人種的、民族的、社会経済的健康格差について研究しているデビッド・マンデル氏だ。なお、マンデル氏は今回の研究には関与していない。