半径80kmが無人の“冬のアラスカ”で突然の失神…現地民から「日本のトナカイ」と畏敬される登山家を襲った“唯一の想定外”「あの時は1つだけいつもと違うことを…」
アラスカの万年雪に埋もれて永遠に発見されず、すべてが謎に
「目を覚ますことができて本当によかった」と栗秋は振り返る。なぜ意識を取り戻すことができたのかはわからない。燃料切れでコンロの火が消えたのが幸いしたのか、あるいはすきま風が吹き込んでいたのか。いずれにしろたまたまの幸運でしかないと思う。 もし、あのとき目を覚ますことがなかったら。 雪面にテントを張っていたのであれば、捜索の飛行機に発見される可能性もあるが、栗秋がいたのは雪の下に掘った空間。上空からは発見できない。通りかかった登山者に発見される可能性も限りなくゼロに近い。なにしろ誰もが避ける冬のアラスカ。次に登山者がハンターに来る可能性があるのは早くても数カ月後だ。 そのときまでには新しく降った雪に覆われて、栗秋がいた痕跡はきれいになくなっているだろう。栗秋の体はアラスカの万年雪に埋もれて永遠に発見されることはなく、何が起こったのかも謎のままだったはずである。 そしてこれは冬のアラスカという特殊空間特有の現象ではなく、高効率クッカーだけで起こることでもない。日本国内でも、登山やキャンプでの一酸化炭素中毒死は数年に一度は起こっている。 冬のアラスカに20年通い続けて生還し続けてきた栗秋でも、わずか1回のミスで命を落としかけた。自分の体験が少しでも教訓になってくれれば。栗秋はそう願っている。
森山 憲一