こうしてSNSが日本の政治を動かすようになった…選挙報道を勝手に"自主規制"したテレビにもう後はない
■報道機関であるテレビがやるべきこと SNSの規制よりテレビ局が検討すべきは、以前のように選挙報道を活発に行うことだ。選挙で有権者の参考になる情報を与えられないようでは報道機関と言えない。そんな危機感を抱く局員は多いはずだ。声を上げていきたいと言っている局員も実際にいる。 ただハードルは高い。BPOの言う「質的公平」を具体化すればいいわけだが、「量」抜きで実際にどうすれば公平なのか。別の党より30秒短かったとクレームをつけられた時、どう言えば「質的公平」だと言えるのか。私にもわからない。 一つの方法として、ネットを駆使するやり方がある。放送法はテレビ局のネットでの報道は対象外となる不思議な法律だ。日本テレビは実際、今年10月の衆議院選挙の時に、「投票誰にする会議」のタイトルでYouTubeで動画を毎日配信していた。 ただ、この時も主要政党から毎日一人ずつという「配慮」はあった。ネットでも「公平」を考えざるを得ないのかもしれない。とは言え、テレビ局はまずネットでの選挙報道には取り組むべきと思う。 ■まだメディアとしての矜持が残っているか だがやはり、テレビは次の大きな選挙で、胸を張って選挙報道に取り組むべきだ。民主主義を支えることは、放送免許を授かる大きな理由のはずだ。そして選挙は民主主義の根幹となる制度だ。それを報道しないようでは、放送免許を持つ意義を国民に示せない。 何より、SNSに負けたことが悔しいのなら、メディアとしての矜持を選挙で示すしかないのではないか。次の国政選挙は2025年7月の参議院選挙だ。ここでまた自主規制を続けるようでは、社会から見放されかねない。質的公平の理屈より、トップが「俺が責任とるから自由に選挙を報道せよ」と腹を括って宣言することが唯一の答えだ。 TVerでドラマがたくさん見られて喜んでいる場合ではない。むしろテレビで十分に選挙を報道し、それをTVerで配信するぐらいのことをやるべきだ。そうすればSNSに「勝つ」ことができる。まだまだテレビは必要なメディアだと、国民に見直してもらえるかもしれない。 ---------- 境 治(さかい・おさむ) メディアコンサルタント 1962年福岡市生まれ。東京大学文学部卒。I&S、フリーランス、ロボット、ビデオプロモーションなどを経て、2013年から再びフリーランス。有料マガジン「MediaBorder」発行人。著書に『拡張するテレビ』(宣伝会議)、『爆発的ヒットは“想い”から生まれる』(大和書房)など。 ----------
メディアコンサルタント 境 治