11年ぶりに夫が帰る。年末にメンタルが落ち込む不安と一緒に過ごせる期待がごちゃまぜに【小島慶子エッセイ】
エッセイスト・小島慶子さんが夫婦関係のあやを綴ります。 今年も、年末鬱がやってくる。毎年クリスマスから正月の松の内ぐらいまで、気分がどんよりするのだ。師走を走り抜けて、さあお休み! となった途端になぜか機嫌が悪くなる。緊張の糸が切れるのか、お休みが嬉しすぎて敏感になるのか、とにかく怒りっぽく、落ち込みやすくなってしまう。いつからだろう、もしかしたら子供の頃からかもしれない。 師走に入って、早くもちょっとその兆候が現れ始めた。過去や未来に思い巡らせ、生きること全般が嫌になってくる。でも今年は仏教に触れる機会が多かったおかげで「いや、今この瞬間に集中、集中。息を吸って吐けるってありがたいな!」などと自分に言い聞かせて、気持ちを立て直すことができるようになった。これが習慣化されてから随分とQOLが向上した気がする。もしかして、ついに年末鬱とはおさらばできるかも。健やかに穏やかに、ニコニコと恵比寿顔で年末年始を過ごせるようになるのかしら。 そんな中、年末に大イベントが待ち構えている。いよいよ夫が帰国するのだ。よりによって世間がお休みに突入する年の瀬に。例年、私の年末鬱がマックスの状態になる時期とちょうど重なっている。しかも、その直前には先月から日本に滞在していた次男くんがオーストラリアに帰ってしまう。1ヵ月あまりも次男くんと二人暮らしなんて、初めてのことでとっても嬉しい。だから彼がオーストラリアに戻った直後の私はきっと、寂しくて寂しくてめちゃくちゃ落ち込んでいるはずだ。でもそこへ夫がわさわさと引っ越してくるのは、かえってメンタルに良いかもしれない。寂しさに飲み込まれる暇がなく、一緒に買い物に行ったりして結構忙しいだろう。そう、夫と街に出て買い物を……待てよ、夫は2013年までの日本しか知らない。完全に浦島太郎状態だ。私はインバウンド客のアテンド係みたいになるだろう。想像するだにめんどくさい。それにしても11年ぶりって、どんな感じなんだろう。移住してから今年になるまで、息子たちも夫も一度も日本に戻らなかった。そもそも移住するってそういうことだろ、と夫も私も考えていたから。今年になってから堰を切ったように、1月に次男が10年ぶりに日本に遊びに来て、7月に10年半ぶりに長男が来て、11月にまた次男が来て、年も押し詰まったところへ夫の登場だ。ちなみに大学生の息子たちは、交通費含めて旅費は自腹である。夫の旅費は私が出すが、帰国したら働き始めるようだから、今後は彼も自分の財布で生きていくようになることを大いに期待したい。いや、期待は禁物だ。なるようになるままに受け入れる。目の前のありようをそのままに受け流すのだ。