アリス・フィービー・ルーが語る、鎌倉とのつながり、ストリートから始まった音楽の意味
「テープを使ったレコーディングは私の中で大きな転機になった」
ー最近のセットリストをチェックしたのですが、一人でピアノだけで歌った曲もありましたよね。これは新曲ですか? そうそう。ピアノで新曲を歌った。ちょうど今新曲をいろいろ作っているところで。日本に行ったらスタジオでレコーディングをしようと思っている。新曲のレコーディングはLAで始めたんだけど、その仕上げをやりたくて。 ーどういう感じの曲になりそうですか? 「The World Above」という曲で。今までとは違うタイプの曲で、80年代のロック・ソングという感じで、サウンドがユニークで最高なの。アルバムに入れる予定はなくて、単発でリリースするつもり。日本でもライブで披露しようかな。 ー今回、「She」はプレイするんですか? プレイしないわ。というのも、この曲が私の最大のビッグ・ソングだと思っている人が多いから。過去の曲の中にはファンが大好きでも、今の私の心から離れたものもあって。これってアーティストが抱える問題なんだけれど、ラッキーなことに、私のファンは新曲に対してとてもオープンでいてくれるから。今回、「Witches」はやるつもりでいる。Spotifyでも一番聴かれる曲だし、ビッグな曲だけれど、私自身が今でも楽しめる曲だから。私はライブでは自分が本当にプレイしたいと思う曲ばかりをやりたくて。お客さんにも楽しんでほしいし、ありのままの感覚を味わってほしいから。 ー先ほど『Shelter』ではアコースティック寄りになったという話が出ましたが、『Shelter』の1曲目「Angel」であなたの歌声から曲が始まるのを聴いた時に、あなたの歌を中心に曲が作られているのだと思いました。そこからていねいに音のレイヤーを重ねていくような曲作りをしていますよね。 そうなの。今もレコーディングをやっていて良いところは、私たち4人はお互いをよく理解した上で音楽を一緒にやっているから、とても良いアプローチができているということ。まず私が一人で曲を書くんだけれど、誰からの影響も受けないで書き始める。私は音楽の教育を受けたこともないし、演奏技術も特にないし、コードもすべて知っているわけじゃない。私はフィーリングと意識の流れを大切にしたい人だから。ヴァース、コーラスといった構成も気にしないし、自分の中から出てくるものを書いて、そこでストーリーを語る。それをスタジオに持っていって、テープを使ってレコーディングしていく。コンピューターは決して見ないで、自分の耳だけを頼りに制作をしていく。演奏もすべてライブ演奏で、録るのは1テイクだけ。編集なんてしないから、ライブ演奏のようだし、親密な感じも出る。私たちのやり方としては、あまり足し過ぎないことを大切にしていて。ゆっくりと積み上げていって、曲の形が出来たところでやめる。スペースがまだ残っている分、過剰な楽器、過剰なプロダクションに埋もれることなく、曲がちゃんと自立できているし、要素としてはあまり多くないんだけれど、曲の良さは生きているから。 ーなるほど。でもそれはスゴく感じられました。 テープを使ったレコーディングは私の中で大きな転機になったと思うの。コンピューターを見ないで、音楽だけを聴いて、欲しいサウンドだけをゲットして、ポストプロダクションに頼らない。私の大好きな60年代、70年代のレコードはどれもそうやって作られたわけだから。そういうクラシックなスタイルのレコーディングを今の時代の視点でやってみたかったから。 ーだから音にヴィンテージ感も出ているわけですね。 マイクロフォン、アンプなど昔の機材も使っているから。だけど、ヴィンテージだけにこだわるわけではなくて、使いたいと思ったらシンセサイザーも入れるし。昔の演奏技術を使いながらも、今の時代のフィーリングでやっている感じ。 ー曲作りの時はとてもカオティックだと聞いていますが、どんな感じなのですか? 天から降りてくるようなことも多いですか? 時にはそう感じることもあるわ。私は超スピリチュアルな人間というわけではないけれど、曲は私の内面から生まれるフィーリングだし、自分で歌うまではわからないものなのばかり。だから曲作りの時は、言いたいことを自分で感じ取り、コードを弾いてみて、それをスマホで録音してみる。最初に出てくる言葉は、自由に出てくるままにまかせたインプロヴィゼーションで。その時はあまり考えすぎることもしないし、オーディエンスのことも考えないし、クールで面白いサウンドになるかどうかも気にしない。大切なのは自分の中に何が隠れているのかだから。パーソナルなものだし、親密なものもあるし、居心地の悪いものもある。でも自分自身とつながって、なすがままに言葉をフロウさせることの美しさがそこにはある。私が常にやりたいと思っているのは、音楽を通して人とつながることで。どんな年齢のどんな人でも、聴いた人がそこに自分なりの意味や愛着を持ってくれて、自分なりにリリックを解釈してくれたらいい。それでどんな人とも私は音楽で会話ができるから。