障害ある人と社会つなぐ「地域活動支援センター」12月末閉鎖へ 山間部に根差した25年 静岡県・浜松市天竜区の「わかすぎ工房」
浜松市天竜区佐久間、水窪など山間部で暮らす精神・知的障害者が社会参加を目指して利用する地域活動支援センター「わかすぎ工房」(同区)が12月末で閉鎖する。25年近くにわたり運営し、地域に寄り添ってきたが、近年は利用者の減少に伴い市の委託料が減るなど経営が難しくなった。利用者の移転先は市内外の就労支援施設やグループホームなど近く決まる予定。 11月中旬、同工房で利用者2人とスタッフ3人が、つまようじ入れを製作していた。つまようじ1本分が入る長方形に和紙を小さくたたむ。スタッフも利用者も笑顔を見せつつ、黙々と作業を進めた。つまようじ入れは丁寧に織り込んだ定番商品。3、4年前は静岡県外の飲食店からも注文があった。利用者とスタッフは陶芸品やアクリルたわしなども作り、市役所や近所の催しなどで販売してきた。 わかすぎ工房は1999年4月、佐久間や水窪など北遠に住む精神障害者や知的障害者の家族らでつくる「若杉会」が母体として作られた。これまで約50人が同工房を経て、県内の就労施設やグループホームに移った。工房に通うことで家族との会話や笑顔が増え、利用者の多くは社会参加のきっかけをつかんだ。 守屋明美施設長によると、最近は1日の利用者が定員の目安となる10人を下回り続けた。地元住民からは「とてもさびしいね」などと悲しむ声が聞かれる。守屋施設長は「山間部で暮らす利用者にとって必要な施設だった。多くの方に支えられた」と振り返る。 主任指導員の清水正子さんは「施設に来ていた子たちから今でも電話が来る。楽しかったんだと思う」と話す。残る利用者は市内外のグループホームや就労継続支援B型事業所への移転を検討している。 工房は9日に天竜区役所で開かれる天竜エリア連絡会主催の授産製品販売会に参加し、最後の交流の機会を楽しむ。 ■利用者減、委託料も縮小… 小規模経営ほど難しく 地域活動支援センターは、就労が困難な障害者を対象に、社会参加を目指す機会を提供する。医療機関や福祉事業所などと連携し、障害者をサポートする。中山間地域など人口が少ない地域は、障害者を支える居場所の確保が課題となっている。 浜松市内は6カ所に設置され、天竜区は「わかすぎ工房」と同区春野町の「あけぼの作業所」の2カ所。施設は1型、2型、3型の3種類で、利用者数の規模やケースに合わせて対応する。わかすぎ工房は最も規模が小さい3型で、利用者の創作活動や生産活動を支援する。 福祉施設の運営は経営面の安定が求められるが、簡単ではない。静岡県内の就労支援施設や福祉施設の事業者らで組織する静岡市葵区のNPO法人「静岡県作業所連合会・わ」の中野卓也理事長は「担い手の減少で人手の確保が難しく、さらに小規模の福祉施設の経営は厳しい状況となっている」と指摘する。 同法人はこれまで、人材確保の支援や利用者が快適に通所できる環境づくりへの補助など県を通じて国に要望してきた。中野理事長は「地域に根付いた福祉施設は必要。利用者の送迎サービスの補助などきめ細やかな支えがないといけない」と話した。
静岡新聞社