「みどりの窓口削減」凍結は一時的?背景にJR東日本が本格化する“脱鉄道依存”
■ 駅構内から消え始めた「時計」「時刻表」 そうした経費削減の流れから鉄道事業者が着目したのが、誰もが所有しているスマートフォンだ。NTTドコモモバイル社会研究所の調査によると、すでに国民の97%がスマホを所有している。タブレットと合わせると、2台所有者も珍しくない。 スマホを使えば各駅の時刻表を簡単にネットで調べることもでき、鉄道各社のHPなどを見ればリアルタイムで列車がどこを走っているのかを知ることも可能になった。 スマホがあればいくつかの駅機能を廃止できる、と考えたJR東日本がまず狙いを定めたのが駅の時計だった。 同社の試算では、駅構内の時計は年間で約4億円もの維持費がかかっていたというから、それを撤去するだけでも大幅に経費を削減できる。そこで、2021年11月より利用者の少ない駅から時計の撤去が開始された。 当初は特に話題にならなかったが、利用者の多い駅へと波及してきた2022年2月ごろから、テレビや新聞が報道するようになる。これが世間の関心に火をつけた。 もちろん時計がなければ利用者は時間を把握できないが、現在はスマホで時刻を簡単に確認できるので、特段不便になるとはいえない。「仕方がない」と理解を示す利用者の声も多かったようだ。 また、スマホの普及によって駅に掲示されている時刻表も2024年初頭から消え始めた。 駅に掲出される時刻表は、鉄道営業法で一駅につき最低でも時刻表を1つは掲示しなければならない規則になっている。そのため、全撤去というわけにはいかないが、数を減らすことでダイヤ改正時に張り替える作業を省力化でき、これも経費削減につながっている。
■ 窓口廃止で混乱に拍車をかけた「インバウンドの復活」 JR東日本は、2025年度までに首都圏で231駅から70駅程度、地方では209駅から70駅程度までみどりの窓口を削減するとの目標を示していた。 みどりの窓口がなくなれば、使い勝手が悪くなる。そんな不安を払拭するため、同社は2020年からはカメラとマイクを駆使してオペレーターが遠隔対応する「話せる指定席券売機」の導入を進めていた。みどりの窓口をなくしても、その機能を代替できるシステムを導入することでサービスに支障が出ることはないと踏んでいたようだ。 しかし、その思惑とは異なる状況が発生する。コロナ禍で大幅に減少していた訪日外国人観光客数の回復が想定以上に早かったことだった。 2023年の訪日外国人観光客数は、約2506万人まで戻ってきている。これはコロナ禍前の約8割の水準にあたる。一気に円安が進行した2024年は、さらに外国人観光客が増加する傾向にある。 外国人観光客が複雑なきっぷの仕組みを熟知して自力で購入できるなら、みどりの窓口がなくても問題は起きない。しかし、IC乗車券やモバイルSuicaなどを使って、列車を駆使する外国人観光客の姿は想像しにくい。 きっぷの購入だけなら、まだ何とかなったかもしれない。みどりの窓口は発券だけではなく、使用前の乗車券などを払い戻す業務も担当している。これら払い戻しも話せる指定席券売機で扱っているが、操作にまごつく人も続出したという。 減る有人窓口、増える訪日外国人観光客──。この状況が同時に進行すれば、混乱が起きるのも自然な成り行きと言える。 また、外国人観光客や高齢者だけではなく、通学定期券・通勤定期を購入しようとする中学・高校の新入生や新社会人なども慣れない機械の操作に時間を要してしまったことだろう。 そもそも従来のみどりの窓口だったら、ひとつの窓口に1人の職員が配置されていたが、話せる指定席券売機は遠隔でオペレーターが利用者とやり取りするシステムのため、1人の窓口担当者が複数の利用者を同時に対応しなければならない。当然ながら、利用者を待たせる時間が発生し、混雑時には待ち時間が長くなる。そのため、話せる指定席券売機の前には長蛇の列ができてしまい、それが利用者に不満を抱かせることにつながった。 外国人観光客への対策として、JR東日本のみならず、大手の鉄道会社で多言語が表示できる券売機を導入しているが、そうした券売機が増えても、外国人たちは対面式の有人窓口を利用しようと考える。それは異国の地を旅する者にとって自然な心理でもある。これらの要因が重なり、JR東日本に怒りの矛先が向けられた。