JR九州高速船の「浸水の隠蔽」はなぜ起きてしまったのか? 重要な「判断の二分」とは
九州旅客鉄道(以下、JR九州)の子会社「JR九州高速船」の高速旅客船「クイーンビートル」(九州・博多港~韓国・釜山港)において、安全に関する重大な不正が明らかになりました。その不正とは、JR九州高速船が運航する福岡と釜山を結ぶ高速船クイーンビートルの船首部分に浸水が認められたにもかかわらず、それを隠蔽して3カ月以上にわたり運航を継続していたこと。この不正を受け、JR九州高速船は日韓航路から撤退すると報じられています。ここでは、企業のガバナンスに詳しい公認内部監査人(CIA)の魚谷 幸一氏がこの不正に関する第三者委員会による調査報告書を読み解き、学ぶべきリスク対応策を解説します。 【詳細な図や写真】最初は当局への報告が行われていた(Photo/Shutterstock.com)
高速船クイーンビートルで行われた不正
高速船クイーンビートルは、JR九州高速船(JR九州の子会社)が運航するジェットホイルというタイプの高速船で、福岡と韓国・釜山の間を結ぶ航路で運航されていました。乗客定員502名、航海速力36.5ノットで、2020年7月に就航、2022年から福岡・釜山間での運航を開始しました。その高速船で発生した船首区画への浸水に関連して行われた不正が今回のテーマです。 不正は、JR九州高速船の経営層も関わった会社ぐるみのものでした。第三者委員会の調査報告書によると、主な問題事象は下記表のとおりです。浸水により運航停止した後に確認された船首部のクラック(割れ目)は1メートルを越えるものでした。その直前までこの船が乗客を乗せて運航していたと聞くと、背筋が寒くなります。
直前までは当局への報告は欠かさなかった
この不正に至る経緯を、第三者委員会の調査報告書から要約してみましょう。 クイーンビートルで初めて浸水が認められたのは、2023年2月11日でした。この問題事象が始まるほぼ1年前です。運航中に浸水警報装置が作動し、その日はポンプで排水しながら航行しました。翌日に、原因究明のためにダイバーが船体を外部からチェックしたところ、5cmほどのクラックが発見され、応急措置が施され、運航は継続されました。 この浸水に関しては、航海日誌に記録され、船体損傷報告書として当局に報告されました。すると、2月14日に当局から直ちに運航を停止するよう指導があり、臨時検査とドックでの修理が行われました。運航を再開したのは3月5日で、それまでの間、JR九州高速船のスタッフは予約客からのクレーム対応に追われました。 クラックからの浸水があった後は、法令により臨時検査が義務付けられています。2月11日の浸水でそれを怠ったため、6月に国土交通大臣から「輸送の安全に関する命令」を受け、11月には船舶安全法違反により罰金30万円に処せられてしまいました。このときのとられた再発防止策の1つが、浸水などの異常発生時には「関係機関へ『まずは第一報』を徹底実行」という方針でした。 一方、クイーンビートルでの浸水は、その後もたびたびありました。7月7日にはスプーン1杯程度の浸水があり、クラックは認められませんでしたが、当局へ報告されました。11月と翌年の2024年1月にも浸水があり、その都度当局への報告をし、応急措置と検査をして運航を再開しました。