ドレイクが復活させた現代アートの遊園地が「残念」。NYの「ルナルナ」体験レポート
「没入型インスタレーション」も今ひとつ
「忘れられたファンタジー」を訪れた人は、ないないづくしの遊園地にがっかりするだろう。まず、ロイ・リキテンスタイン、サルヴァドール・ダリ、デイヴィッド・ホックニーによるカラフルだがパッとしないインスタレーションを除けば、没入型体験はない。サーカス芸人や象などの狂気じみたパペットが、怒りを抱えて迷う魂のように会場の一番大きな部屋を出たり入ったりするパフォーマンスも、美術館の展覧会のようだとは到底言えない。しかも、遊園地とすら言えない。子ども向けというよりも、「事情通」のブルジョワな大人とその子どもたちを対象にしているように感じるのだ。 料金体系について言えば、昨年12月にロサンゼルスのボイルハイツ地区にルナルナが登場したときには、94ドル(約1万4000円)の「ムーンパス」さえ持っていれば、あれこれ注意事項はあるものの、ダリとホックニーの展示には入場できた。とはいえ、ホックニーのほうは単なるだだっ広い空間で、過激な表現で知られるラース・フォン・トリアー監督が思い描く偽のグリム童話の森のような代物だ。不規則に点滅するストロボライトがいくつも並び、(没入体験の一部だったのかどうかはわからないが)部屋の反対側にごく普通の服を着た男がいて、私の一挙一動を真似するので気味が悪かった。ダリの鏡張りの部屋にしたところで、自分が5人いるように見えるセルフィーを撮りたいという人以外、入る価値はほとんどない。 ニューヨークでの料金体系は、また異なる切り分けになっている。94ドルの「ムーンパス」では、会場や「没入型インスタレーション」に優先入場でき、高価なグッズの割引も受けられる。さらに241ドル(約3万6000円)の「スーパームーンパス」では、これらの特典に加え、どのアトラクションも待ち時間なしで体験できる。ただし、金にものを言わせたところで乗り物は鑑賞するだけだ。もちろん、一般の入場者たちの長い列に並ばなくても、ロイ・リキテンスタインの家やガラスの迷路に入ることができるという利点はある。これは、私の閉所恐怖症と広場恐怖症を同時に発症させる「一粒で二度おいしい」アトラクションだ。 最大の呼び物は、ルナルナの発案者であるヘラーによるアトラクション、「Wedding Chapel(ウェディング・チャペル)」かもしれない。ここでは、誰でも公開結婚式を挙げることができる。相手は自由で、意中の人、親友、パートナー、あるいはスーパームーンパスの購入者から未来の配偶者を選んでもいい。87年のハンブルクでは、犬の飼い主が犬と結婚する例が相次ぎ、カメラと結婚した写真家もいた。作家のウィリアム・パウンドストーンによると、「私が目撃した結婚式の新郎新婦は、ほとんどが父親と娘だった」という。ルナルナの黄色い結婚証明書には、幸せそうなカップルを撮影したポラロイド写真が貼り付けられるが、離婚するには写真を剥がすだけでいいとも書かれている。「司祭」と「助手」は、「離婚オプション」をみんなに勧めていた。 このアミューズメントパークの中で最も風変わりかつ最高なのが、87年当時「Sonne statt Reagan(レーガンではなく太陽を)」というヒット曲を生み出したフルクサスのアーティスト、ヨーゼフ・ボイスによるテキストだ。乗り物でもなく、りんご飴の屋台でもなく、ましてや小便器用の尿石除去剤でもない真面目な作品で、入口付近に、ほとんど読めないくらいのなぐり書きで掲示されている。 題名は「資本と創造性に関する文章」。ドイツ語がわかる私の友人によると、その文章には「お金は資本ではない。しかし、能力は資本である」、「私はマルクス主義者ではないが、マルクスを盲信するだけのマルクス主義者よりマルクスを愛しているかもしれない」といった珠玉の言葉が並んでいる。おならコンサートの劇場から出てきた子どもたちがこれを見たら、どんな衝撃を受けるだろう。 ルナルナの会場を出た後、地下鉄の駅に向かって歩きながら空を見上げた。私は笑うだろうか、それとも泣くだろうか? そのとき夜空にきらめくものが見えたが、それは月でも星でもない。4年ぶりに再オープンした巨大アート「The Vessel(ベッセル)」(「vessel」には「船」の意味もある)のクリスマスイルミネーションだった。自殺が相次いだため閉鎖されていたこの階段状の構造物は、飛び降り防止用のネットが上から下まで取り付けられ、営業を再開している。これならみんな「乗ることができる」というわけだ。