農的な暮らし(1)「自給自足」の夢へ 古くて新しい「農」のプロジェクト
「ノラノコメンバー」と呼ばれるレギュラーメンバーは、最低月1回の農作業に参加する。昨年、稲作に関わったメンバーは27人を数えた。田植え、稲刈り、脱穀といった特に人出がかかる作業には、さらに多くの人々が集まる。収穫したお米は、共同作業への参加時間に応じて分配する。昨年は、土地代も「お米」で精算した。 彼らが志向する自然農では、耕うん機などの現代的な農機具は使わない。さらに「耕さない」「農薬・肥料を使わない」「草、虫を敵としない」「何も持ち出さない、持ち込まない」――という『川口式』を受け継いでいる。1970年代から自然農に取り組む奈良県桜井市の川口由一さんが提唱し、自給自足を目指す人や有機無農薬栽培農家に広めている農法で、4人もこれを学んだ。 農機具や農薬は、その是非はともかく、手間を省いたり収量を上げるために導入されているものだ。それらに頼らないということは、すなわち、より「人出」を必要とするということである。だからこそ、離合集散的な「ノラノコ・プロジェクト」が自ずと出来上がった。僕はとても合理的でリーズナブルなシステムだと思う。
「共感」でつながったメンバー
僕は新聞記者時代、岐阜県の高山支局(高山市というより、飛騨高山と言った方が通りはいいだろう)に3年半ほどいたが、山間部の農村の暮らしが息づく同地で初めて、春になると「田植え」を理由に職場を休む人が大勢いることを知った。飛騨地方は、山間地の伝統的な暮らしが色濃く残る地域だ。半自給自足的な兼業農家も多く、「血縁」や「地縁」でつながる小規模な農業が主体である。田植えは、親類・地域住民総出の一大イベントなのだ。 一方、「ノラノコメンバー」のほとんどは、地縁血縁ではつながっていない。滋賀県内からの参加が8割ということだが、おらが村の地元民の集まりというわけではないのだ。京都、大阪、兵庫といった県外の大都市圏から作業に参加する人たちもいる。職業も、農業を生業としているのは27人中2人だけで、ほかは、自営業、会社員、主婦などさまざまだ。これに、僕のように、田植えや稲刈りという「おいしいところ」だけに遠方から野次馬的に参加する者も加わる。昨年は延べ200人ほどが米づくりに関わった計算になる。