【丸の内Insight】日本カストディ問題、資産運用立国脅かす統治不全
(ブルームバーグ): 皆さん、おはようございます。布施太郎です。今月のニュースレターをお届けします。
金融業界の取材を20年以上続けていますが、この分野は広く、深いと取材の度に気付かされます。有価証券の決済業務もその一つです。
国内で専門に手がけるのは日本カストディ銀行(CBJ)と日本マスタートラスト信託銀行の2社。滞りなく決済が完了するのが当たり前とされる業務であるため、普段はニュースに登場することがほとんどない会社です。それだけに、昨年6月にCBJが発表した前社長による不正問題には驚かされました。
CBJの筆頭株主は三井住友トラスト・ホールディングス。前社長も傘下の三井住友信託銀行出身です。今やどの金融機関も当たり前のように使う「フィデューシャリー・デューティー」(受託者責任)はもともと信託業界で発展した考え方で、徹底した顧客志向と高い倫理観が信託業務に携わる人々の矜持(きょうじ)であるはずです。その一点において商業銀行とは一線を画していると考えてきただけに衝撃を受けました。
有価証券決済という資本市場のインフラを支えるCBJのガバナンス不全は、政府が掲げる「資産運用立国」の足元さえ揺るがしかねません。金融庁も体制の立て直しを厳しく求めています。CBJは立ち直れるのでしょうか。今後の展望をリポートします。
けん制機能備わらず
CBJがガバナンス強化に向けて大きくかじを切った。6月26日の定時株主総会で、これまでの監査役会設置会社から監査等委員会設置会社への移行を決め、取締役会の監督機能を強化する。同時に役員体制も大きく変更する。
昨年6月にCBJが公表した不正問題の発端になったのは、三井住友THから社長に就任した田中嘉一氏だ。CBJは田中氏の名前を伏せたまま、元取締役の不正行為として発表。
非公表の社内調査報告書によると、田中氏は社長在任中の2022年に同社のシステム開発を受注した外部ベンダーに対して、社長退任後に自らの個人会社に業務を発注するように働きかけるなどしており、調査委員会は、複数の利益相反取引や特別背任未遂罪に該当する行為があったと結論付けた。