インテリじゃないけれど 地元民が5年後の石巻を「ゆるく」変える
震災で途絶えた「七夕飾り」5年ぶりの復活
「石巻川開き祭り」には震災以来、途絶えてしまった伝統があった。カラフルな和紙で作った花かごや吹き流しで中心街を彩る七夕飾り。70年以上の歴史を誇るが、震災に竹かごを奪われて中断。作り手が高齢化したこともあって再開は困難だった。 石巻2.0のメンバーとなった近江さんは、「地元出身の私がやりたい」と七夕飾り復活の責任者に名乗り出た。「小さいころから見ていた。あって当たり前のものだったからね」。思い入れは強かった。担当者を訪ねて七夕飾りの復活を提案。「大変だからやめておけ」と言われたが、それでもやりたいと熱意を伝えて許可を得た。
従来は商店街の店主たちが少人数で作っていた七夕飾りの形式を「みんなで楽しめるように」と刷新。東京と石巻で14回のワークショップを開催して延べ300人以上を巻き込んだ。地元出身の近江さんが準備に動き始めると、同級生や先輩・後輩が製作に参加し、商店街の人々が七夕飾り作りの先生役になってくれた。地元出身者が先導した意味は小さくなかった。 2015年の石巻川開き祭り。石巻市街地にあるアイトピア通りの沿道には、高さ約10メートルの竹が24本設置され、七夕飾り約60個が飾られた。「復活させた七夕飾りを見て、商店街の人たちも『やってよかったね』と喜んでくれた」
縮まった石巻2.0と地元との距離
七夕飾りの復活は団体と街の距離を近づける効果を生んだ。2013年に市外から移住し2015年春から石巻2.0に加わった加納実久さん(29)は「七夕飾りの復活は石巻2.0の転換点だった」と受け止めた。ただし、次回の七夕飾りを楽しみにしてくれてはいても、作り手側に回る地元住民は必ずしも多くない。地域の人との間ではまだ壁を感じることがあるという。 設立時は市外の人材も多かった石巻2.0。現在フルタイムで働く9人のうち石巻出身者は5人。設立当初からのメンバーも協力しているが、日々の活動は20代から30代のメンバーが中心だ。近江さんは移住者と地元住民の間に立ち、つなぐ役割を果たす。「この街全体を変えるのは難しいかもしれない。でも自分の半径10メートルくらいの街の人だったら幸せにできるかなと考えている。自分が幸せにできる範囲をみんなが広げていったら街はもっとよくなる」