日本を「創造的破壊」ができない国にした「方針」 いま最も必要な「天才シュンペーター」の思想
日本の企業経営者と公共政策の担当者は、株主価値の最大化を追求するコーポレート・ガバナンス体制と、経済全体の持続可能な繁栄との関係については、アメリカにおいてすらも、議論の余地が大いにあることを認識すべきである。(Lazonick, W., 'The Japanese economy and corporate reform: What path to sustainable prosperity? ',Industrial and Corporate Change, 8 (4), 1999, pp. 625-6.)
しかし、ラゾニックの警告は無視され、日本は、株主価値最大化を追求する改革へと邁進していったのである。 例えば、2001年6月、小泉純一郎政権の下で、「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針」、いわゆる「骨太の方針」が初めて閣議決定された。この「骨太の方針」は、「預貯金中心の貯蓄優遇から珠式投資などの投資優遇へ」と宣言し、株主価値最大化のイデオロギーを高々と掲げた。 今日まで続く、株主重視の「コーポレート・ガバナンス改革」の火ぶたが切って落とされたのだ。
これは、ラゾニックに言わせれば、企業がイノベーションを起こせないようにする方針を宣言したに等しい。 そして、実際、日本企業はイノベーションを起こせなくなった。「失われた10年」は、「失われた30年」へと延長されて、現在に至っている。 ■シュンペーター読みのシュンペーター知らず なお、この2001年の「骨太の方針」は、その中で「創造的破壊」という言葉を使ったことでも知られている。 「創造的破壊」というのは、シュンペーターが『資本主義・社会主義・民主主義』の中で、イノベーションのさまを表す表現として使い、広めた言葉である。
ところが、このシュンペーターの言葉を引用した「骨太の方針」は、シュンペーターの遺産を受け継ぐラゾニックの「革新的企業の理論」に反するような方針を決定していた。そして、日本を「創造的破壊」ができない国にしたのである。 シュンペーターは、日本でも人気の高い経済学者である。特に「創造的破壊」という言葉は、ビジネス雑誌などにおいても、好んで使われてきている。 しかし、シュンペーターの名や「創造的破壊」という言葉は知っていても、実際に、シュンペーターの著作を読んだ人は、経済学者ですら、少ないのではないだろうか。読んだだけではなく理解した人となると、もっと少ないだろう。