大きな事件は起きないけど癒された…お正月に放送した意義とは? 新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』考察レビュー
松たか子主演の新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』(TBS系)が1月2日(木)に放送された。本作は、野木亜紀子によるオリジナル脚本で、“家族の在り方”を描いた新時代のホームドラマだ。今回は、とある人生のほんの1ページを綴った本作のレビューをお届けする。(文:苫とり子)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 【写真】松たか子と多部未華子と松坂桃李の3姉妹弟に癒された…貴重な未公開写真はこちら。新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』劇中カット一覧
お正月に放送する意義のあるドラマ
多くの人が年末年始を地元で過ごす。久しぶりに家族や同級生に会えるのは嬉しいし、慣れ親しんだ実家でゆっくりできるのもいい。だけど、親から結婚や出産を急かされたり、その期待に応えられないことへの負い目から、親戚の集まりで疎外感を覚えたり。大人になると、そういうことが増え、憂鬱になる人も多いのではないだろうか。 そんな時だからこそ、新春スペシャルドラマ『スロウトレイン』(TBS系)は放送する意義のある作品だった。 定年退職を控えたTBSの演出家・土井裕泰の“卒業制作”であり、土井とドラマ『空飛ぶ広報室』(2013 、TBS系)、映画『罪の声』(2020)などでタッグを組んできたが脚本を手がけた本作は、「寂しさ」と「孤独」についての話だ。 鎌倉で暮らすフリー編集者の長女・葉子(松たか子)と、職や居場所を変えながら、ふらふらと暮らす次女・都子(多部未華子)、そして江ノ島電鉄の保線員で、葉子と二人暮らしの長男・潮(松坂桃李)。交通事故で両親と祖母を一度に亡くしてから23年、支え合って生きてきた渋谷家の三姉弟がそれぞれ人生の岐路を迎える。 大きな事件は起きないし、ドラマチックな出会いが降ってくるわけでもなければ、考察しがいのある謎も存在しない。本作で描かれるのは、私たちと変わらない日々を営む、葉子たちの人生のほんの1ページに過ぎないが、新しい年をやさしく照らす月明かりのようだった。
葉子(松たか子)に押し寄せる、知らなかった事実
カフェで店長をしていた都子が突然仕事を辞め、韓国に行くと言い出したことをきっかけに、葉子の知らなかったことが次々と明らかになる。都子には韓国人の恋人ユンス(チュ・ジョンヒョク)がいて、彼と釜山で飲食店をオープンするというのだ。 潮は葉子が担当する作家の百目鬼(星野源)と取材で知り合い、いつの間にか交際していて、一緒に暮らすことを検討していた。だが、潮が独り身の姉を置いていくことに躊躇しているため、葉子は百目鬼の勧めで婚活することになる。 印象的だったのは、葉子が婚活アプリで出会った男性(宇野祥平)の「あなた、孤独じゃないんですよ。だから、簡単に言えるんです。一人でも生きていけるって、独りじゃないから言えるんです」という台詞だ。 その言葉通り、葉子は孤独とは無縁だった。両親を早くに亡くし、独身で子供もいないけれど、都子と潮がいて、仕事もやりがいがあって、十分満たされている。だけど、世間は勝手にジャッジしたがるもので、葉子は一人というだけで「寂しい人」、「結婚しないのも何か理由があるに違いない」と思われてきた。 それを葉子自身、利用したこともある。葉子にはかつて目黒(井浦新)という結婚を考えたことのある恋人がいたが、互いの大切にしているものを傷つけ合ったことで破局した。だが、そのことを他人に説明したくもなかったし、説明したとして理解してもらえるとも思わなかったから、幼い妹と弟がいることを理由にしたのだ。