刑事司法の病理現象「冤罪」に関する「日本特有の問題」…日本は「冤罪防止」のためのシステムや取り組みが欠如しているという「恐ろしい現実」
「法の支配」より「人の支配」、「人質司法」の横行、「手続的正義」の軽視… なぜ日本人は「法」を尊重しないのか? 【写真】日本の有罪率が99%を超えるのは「検察の優秀さ」ではなかった… 講談社現代新書の新刊『現代日本人の法意識』では、元エリート判事にして法学の権威が、日本人の法意識にひそむ「闇」を暴きます。 本記事では、〈日本人の死刑に関する考え方は、先進諸国の中では「特異なもの」だという「意外な事実」〉にひきつづき、「刑事司法における明らかな病理現象」である冤罪について、刑事司法関係者の法意識を中心にみていきます。 ※本記事は瀬木比呂志『現代日本人の法意識』より抜粋・編集したものです。
冤罪に関する日本特有の問題
冤罪は、いわば刑事司法の病理現象、宿痾(しゅくあ)であり、どこの国にでも存在する。 しかし、日本特有の問題もある。それは、日本の刑事司法システムが冤罪を生みやすい構造的な問題を抱えていること、また、社会防衛に重点を置く反面被疑者や被告人の権利にはきわめて関心の薄い刑事司法関係者の法意識、そして、それを許している人々の法意識、という問題である。日本の刑事司法システムは、為政者や法執行者の論理が貫徹している反面、被疑者・被告人となりうる国民、市民の側に立って上記のような国家の論理をチェックする姿勢や取り組みは非常に弱いのである。 刑事司法システムの問題からみてゆこう。 まず、身柄拘束による精神的圧迫を利用して自白を得る「人質司法」と呼ばれるシステムが挙げられる。勾留期間20日間に逮捕から勾留までの期間を加えると最大23日間もの被疑者身柄拘束が常態的に行われている。また、否認したまま起訴されると、自白まで、あるいは検察側証人の証言が終わるまで保釈が許されず、身柄拘束が続くことがままある。第一回公判期日までは弁護人以外の者(家族等)との接見が禁止される決定がなされることも多い。 「人質司法」は、日本の刑事司法の非常に目立った特徴であり、明らかに冤罪の温床となっている。しかし、これについては、近時ようやく一般社会の注目が集まるようになってきたという段階であり、改革は、ほとんど手つかずのままである。 検察官の権限が非常に大きく、たとえば英米法系諸国における大陪審や予備審問のように起訴のためにほかの機関による承認やチェックを必要とする仕組みがないことも、大きな問題である。起訴権を独占する一枚岩の組織体としての検察の権力は、無制約に強大なものとなる。 そして、江戸時代以来連綿と続いている「自白重視、自白偏重」の伝統が、以上の問題に拍車をかけている。こうした伝統の下では、捜査官も検察も、いきおい自白を得ることに固執しがちになるからだ。