上司が部下に「絶対に言ってはいけないNGワード」とは?【令和時代のパワハラ最前線】
「上司も部下も、社会人全員が一度は読むべき本」「被害者や加害者にはならないためにもできるだけ多くの人に読んでほしい」と話題沸騰中の本がある。『それ、パワハラですよ?』(著者・梅澤康二弁護士/マンガ・若林杏樹)だ。自分はパワハラしない、されないから関係ない、と思っていても、不意打ち的にパワハラに巻き込まれることがある。自分の身を守るためにもぜひ読んでおきたい1冊。今回は特別に本書より一部抜粋・再編集して内容を紹介する。 ● 目標を達成していない部下と優秀な社員と比較するのはパワハラになる? 【事例】 20代男性。営業職に従事しているが、目標数字をなかなか達成することができない。「〇〇さんはできているんだから」と優秀な同僚と比較され、「やる気がないからできないんじゃないの」「だいたいお前は自分のことしか考えていない」などと言われ、目標の未達は本人の人格や努力不足のせいにされる。 ノルマを達成できない社員に対して、「Aさんは達成できている」「お前以外のみんなは達成できている」などと、他人と比較しながら注意指導するケースはよくありますよね。 このような他人と比較する指導は、言われた本人からすれば屈辱的な指導として不快感を覚えることは当然です。 しかし、指導上、他者と比較する言動がされたとしても、ただちに業務の適正な範囲を超えた指導であることにはならないのです。 ● 「他者との比較」が指導として合理的な場合もある 業務指導の中で、他者のノルマ達成状況について言及する必要がある場合は往々にしてあります。 たとえば、同じようなノルマを達成できている社員がいる場合、その社員の仕事のやり方を参考とするように指導することは、指導内容としては合理的です。 また、職場の大多数がノルマを達成している場合、会社はノルマ未達の社員を低く評価せざるをえません。 そうすると、「周囲は概ねノルマを達成している」という情報は、言われた本人が危機感を持つために必要な情報であるともいえます。 このように、相手の業務改善を促す趣旨で他者との比較に言及することは、常識的に許容されるべきといえるでしょう。 ● 「屈辱感を与えよう」とする場合はパワハラになる可能性も 一方で、他人と比較する言動が、その内容から「もっぱら相手に屈辱感を与えることを目的」としていると評価される場合は別です。 すなわち、建設的な内容ではなく、「目標達成する能力が乏しい」ことをことさら強調するためだけに、他の職員がノルマを達成していることや、周囲の大多数がノルマを達成している話を持ち出すことがあります。 こういった場合は、「相手の恥辱を不必要にあおる行為」として、業務の適正な範囲を超えたパワハラである、と評価される可能性は否定できません。 ● 「嫌味」ではなく、「指導」だとわかるようにするには? 業務指導なのかどうかの区別は明確ではなく、業務のつもりで指導したのに、相手には辱めるための言動だと受け取られた、という行きちがいも大いにありえるところです。 そのため、指導する側としては、どういう趣旨で比較する言動をしているのかがわかるよう言葉を補うなど、丁寧に説明しながら指導をするといいでしょう。 ● 「人格否定」はパワハラになる可能性が高い また、ノルマ未達の社員に対する指導は、あくまで「本人に業務目標に達していないことへの危機感を持たせたり、必要な気づきを与えたりする目的のために行うもの」です。 目標達成していないことを理由に相手の人格を否定するのは、この正当な目的に合致しないことは明らかです。 人格を否定するような指導は、業務の適正な範囲を超えるパワハラと評価される可能性は高いといえます。 ● 「人格否定」になる言葉とは? では、どういった指導が人格否定に当たるのでしょうか? この点は、常識的な見地から判断するほかありません。 たとえば、ノルマ未達であることを理由に「人間的に未熟である」「社会人として能力が低い」「自分のことしか考えていないやつだ」などと断ずる行為は、人格否定に当たる可能性があります。 また、業務目標が達成できない理由について、「努力が足りない」「やる気が足りない」といった漠然とした主観的な評価を繰り返す行為も、「単に相手を困惑させるだけの人格否定である」と評価される可能性も否定できません。 ● 「なんでできないの?」ではなく、「具体的な指導」が大切 指導する正当な目的の範囲を超えて、もっぱら相手に屈辱を与えたり、困惑させる行為は、業務の適正な範囲を超えていると評価されやすいといえるでしょう。 もしノルマ未達について指導する場合は、なぜそのような指導をするのかの目的を意識しつつ、「何が足りていないのか」「何をするべきなのか」という具体的な指導をするよう留意しましょう。 ※『それ、パワハラですよ?』では、パワハラになるかどうかがわかりにくい「グレーゾーン事例」を多数紹介。令和時代に必須のコミュニケーションスキルを身につけるために、管理職、リーダーはもちろん、部下も読んでおきたい1冊。 [著者]梅澤康二 弁護士法人プラム綜合法律事務所代表、弁護士(第二東京弁護士会 会員) 2006年司法試験(旧試験)合格、2007年東京大学法学部卒業、2008年最高裁判所司法研修所修了、2008年アンダーソン・毛利・友常法律事務所入所、2014年同事務所退所、同年プラム綜合法律事務所設立。主な業務分野は、労務全般の対応(労働事件、労使トラブル、組合対応、規程の作成・整備、各種セミナーの実施、その他企業内の労務リスクの分析と検討)、紛争等の対応(訴訟・労働審判・民事調停等の法的手続及びクレーム・協議、交渉等の非法的手続)、その他企業法務全般の相談など。著書に『それ、パワハラですよ?』(ダイヤモンド社)、『ハラスメントの正しい知識と対応』(ビジネス教育出版社)がある。
梅澤康二