『ライオンの隠れ家』が問いかけた“選択”の意義とは? 圧倒的魅力でドラマを牽引したキーマンは?考察&解説
柳楽優弥が魅せた“ふつう”の男性役の新鮮な魅力
他にも魅力は数多くある。出演者の認知度、演技がすばらしかったことは、そのひとつ。 「懸念しているのが、オンエアのたびに僕だけどんどん好感度が落ちていってるので、それを回復する良いアイデアがあれば教えてください(笑)」 クランクアップ時のコメントでそう言っていた橘祥吾を演じた向井理。序盤で「ああ、この人がライオン(橘愁人/佐藤大空)のこと、虐待しまくっていたんだよな」くらいは思っていた。ただその後、大きな出演はほぼないのにもかかわらず、祥吾が存在をチラつかせてくるだけで怖いのである。メインの登場人物とほぼ接触がないのに、陰湿度100%。物語において必要だった。 主人公である、洸人を演じた柳楽優弥の演技もふつうで良かった。これまでの彼の出演作を記憶の範囲で振り返ると『ゆとりですがなにか』(2016、日本テレビ系)の道上まりぶ役で「おっぱい、いかがっスか!」と、風俗の呼び込みをするような強烈且つ、癖のある役が多い気がする。それが今回は市役所の職員という、どこにでもいるふつうの男性。ゆったりとした話し方も新鮮で、お兄ちゃん役はベスポジだった。 そしてライオンこと佐藤大空くんの、自然な演技。SNSでも大活躍で、本当に頑張っていたことが観ている側に染み渡った。その母親・橘愛生役の尾野真千子の演技も安定。複雑な環境下にあった役なのに、本人の明るさが滲み出ていた。トーンの暗い放送回でも、この親子が中和剤だった。 こうしてドラマ全体を見渡すと登場人物のフォーメーションが完璧だったのだとつくづく。
『ライオンの隠れ家』が伝えた“選択”の意義
他にもエンディングのスタッフロールの演出や、主題歌と作品の親和性、貞本(岡崎体育)親子、似すぎ! などいくつも魅力はある。ただ並べても親父の居酒屋政談のごとく、とりとめのないものになりそうなので、このへんで。 あらためて『ライオンの隠れ家』とは、何を言いたかったのかを考えると、私の解釈としては“選択”の意義だ。人は日々、大なり小なり、選択を迫られて生きる。今夜の食事のメニューや、老後の問題。選ぶために人は生きているようなものだ。そしてその都度、自分で選ぶことをなんとか避けようして、いつの間にか他力にすがっている。 洸人は美路人に依存していた自分に気づいて、大学と新しい仕事を選んだ。美路人は必要性を感じて家を出ることを決めた。さて私は、あなたは、今日なにを選ぶのだろうか。 「思い切ってどーんと、飛び込んじゃえばいいんですよ!」 最終回で工藤楓(桜井ユキ)の言ったひと言に、その答えが詰まっている。 ※『ライオンの隠れ家』(TBS系)はNetflix、U-NEXTにて配信中 【著者プロフィール:小林久乃】 出版社勤務後、独立。2019年「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」にて作家デビュー。最新刊は趣味であるドラマオタクの知識をフルに活かした「ベスト・オブ・平成ドラマ!」。現在はエッセイ、コラムの執筆、各メディア構成、編集、プロモーション業などを生業とする、正々堂々の独身。
小林久乃