『ライオンの隠れ家』が問いかけた“選択”の意義とは? 圧倒的魅力でドラマを牽引したキーマンは?考察&解説
視聴者を魅了し続けたドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)は、最終回を迎えた今もなお、多くの人々の心に深い余韻を残している。今回は、出演者たちの圧倒的な演技力、複雑なテーマの中に光るメッセージに触れながら、作品が伝えた深い魅力に迫る。(文・小林久乃)【あらすじ キャスト 解説 考察 評価 レビュー】 【写真】柳楽優弥たち”小森家”の日常に癒される…貴重な未公開写真はこちら。ドラマ『ライオンの隠れ家』劇中カット一覧
視聴者の心に刻まれた『ライオンの隠れ家』の世界
「19時になりました! プールから出る時間です!」 区民プールでひと泳ぎをして、ジャグジーに入っていたときのこと。母親と一緒に来ていた青年が大きな声で、そう言っていた。彼の話し声を聞きながら (あ、みっくん) と自然に名前が浮かんだ。みっくんとは先日、最終回を迎えた『ライオンの隠れ家』(TBS系)の登場人物、小森美路人(坂東龍太)の愛称だ。連続ドラマの放送は終わったけれど、作品の余韻が大きく視聴者の間に残っている。 ワンクールに連続ドラマが40本以上制作される、ドラマ飽和状態の昨今。この状況下において作品の吸引力はなんだったのか。
坂東龍太の圧倒的な演技
ドラマスタート以前。作品の資料やホームページを読み込んでも、『ライオンの隠れ家』の主旨がぼんやりとしていた。男3人で暮らす物語なのか? それくらいにしか考えていなかったけれど、いざスタートしたら、あら大変。サスペンスに人間ドラマ…にと、ただのヒューマンドラマだけでは、消化できないほどの内容が詰まっているではないか。 その中でも魅力を牽引していたのは、自閉スペクトラム症の役を演じていた坂東龍太が圧倒的だったと私は思う。この病気のことを熟知しているわけではなく、一般的な情報しか知らない。それでも彼らの様子が、坂東の演技を通して伝わってきた。 例えば足の指の独特な動かし方。裸足になったシーンでは、10本の足指を波打つように動かしている演技にドキッとした。坂東は障がい者のことをよく見て、知って、覚えている。他にも視線の動かし方、まばたき、発言しようとするときの息づかい。そこに坂東はおらず、生まれたときから自閉スペクトラム症である、美路人しかいなかった。 約30年間、私のように粛々とドラマだけを見ていると、障がい者を演じている作品にはたびたび出くわす。それが連ドラや、夏の2時間スペシャルドラマだったりするのだが、違和感を覚えることがほとんど。そのたびに自分たちは障がい者の存在に対して、敏感であることに気づく。私たちは弱者である彼らの気配を常に気にしている。守ろうともしているのかもしれない。 だからこそ忠実に演じてほしいという願望が大きい。でも放送されるたびに「?」の繰り返し。今まで吸い込まれた演技といえば、ユースケ・サンタマリアが演じたドラマ『アルジャーノンに花束を』(2002、フジテレビ系)のハル役くらいだろうか。あれから20年近く経過して、また正解に会うことができた。