くるりが語る『tiny desk concerts』の魅力、「生き別れの兄弟」ダニエレ・セーぺとの邂逅
総合テレビでレギュラー放送がスタートした『tiny desk concerts JAPAN』の10月28日(月)23時~放送回にくるりが出演。岸田繁が20年に渡り大ファンで、新曲「La Palummella」を共作したイタリア・ナポリの音楽家であるダニエレ・セーぺとその仲間たち、さらには弦楽四重奏を迎えるなど、これまでの日本版tiny desk concertsでは最大となる総勢16名が参加し、特別なパフォーマンスを披露した。本稿では、当日の収録に立ち会い、放送ではわからない部分も含めた詳細なレポートと、収録後に実施した岸田繁と佐藤征史のインタビューをお届けする。 【画像を見る】くるり『tiny desk concerts』写真(独占カットあり) ※以下、ネタバレあり NHKのオフィスの一画に作られたスペースに、NHK関連のグッズに混ざってくるりのフィギュアやバンドスコアも並べられる中、岸田繁と佐藤征史、ライブのサポートでお馴染みの松本大樹と石若駿(君島大空の回に続いて、2度目の本番組出演)に加え、ダニエレをはじめとしたイタリアの音楽家たちが参加し、一曲目に早速「La Palummella」を披露。「ナポリ民謡を基に作られた、古いオペラのアリア(独唱曲)」と岸田がコメントしているこの曲は、タンバリンやカスタネットが打ち鳴らされるイントロに始まり、ダニエレのフルートと松本のマンドリンが郷愁を感じさせるメロディを奏でつつ、声を合わせて歌うパートは非常に勇壮でもある。マーチング風のリズムを叩く石若のスネアはタオルでミュートされていたりと、もちろん全体的に音量は抑えられているのだが、歪んだギターも鳴らされていて、厚みのあるアンサンブルが印象的だった。 ここで一度ダニエレたちは退いて、コーラスの加藤哉子と弦楽四重奏が着席。チューニングを済ませると、2曲目に披露されたのは「ブレーメン」。オーストリア・ウィーンで現地のオーケストラとともに制作され、くるりの音楽地図をグッと広げた名盤『ワルツを踊れ Tanz Walzer』の収録曲であり、やはり弦のアレンジが素晴らしく、抑揚の効いた演奏が音量以上のダイナミズムを感じさせる。曲ごとにメンバーや楽器が入れ替わるので、佐藤が「時間内に終わらなくても大丈夫なんですかね?」と笑わせる場面もありつつ、続く「奇跡」もソロをフィーチャーした弦の演奏・アレンジがオリジナルの楽曲の良さを何倍にも引き立てていて、親密な雰囲気と深い感動を生み出していた。 こちらもライブのサポートでお馴染みの野崎泰弘が加わり、さらにはダニエレがもう一度戻ってきたが、サックスのストラップが見つからなかったり、収録用のマイクの位置を動かしてしまったりと、tiny desk concertsが掲げる「ライブ・ドキュメント」ならではのちょっとしたハプニングも。しかし、ダニエレの陽気なキャラクターも手伝って、現場の空気はとても和やかで、サックスのソロをフィーチャーした「TIME」ではそんな空気を象徴するかのように手拍子が起こり、一瞬ここがNHKのオフィスであることを忘れるような雰囲気に。その盛り上がりはヒューマン・ビートボクサーのSHOW-GO(tiny desk concertsは基本生音だが、この日唯一マイクを使用)が加わった「琥珀色の街、上海蟹の朝」で最高潮に達して、フロアは大きな拍手と歓声に包まれた。 「あー、緊張した。みなさん、おつかれさまです」という挨拶に続いて、「tiny desk concerts、やってみたいと思いながらYouTubeを眺めたりとかしてて、まさか実現していただけるとは思ってなかったんですけど、本当にありがとうございます。タイニーですからね、このスペースなので、少人数でと思ったんですけど、友達が多いもので(笑)、たくさん連れてきました」と岸田がにこやかに話し、この日最後に演奏されたのは「ばらの花」。弦楽四重奏とダニエレのフルートによるアンサンブルが美しく、アウトロには「BABY I LOVE YOU」のフレーズを一瞬挟んでニヤリとさせる場面も。渋谷にあるNHKのオフィスにいながらにして、ナポリ、ウィーン、上海、京都と、時間も距離も超えた旅を経験したような、とても豊かにして、心を揺さぶられるパフォーマンスだった。