くるりが語る『tiny desk concerts』の魅力、「生き別れの兄弟」ダニエレ・セーぺとの邂逅
ダニエレ・セーぺとの邂逅、音楽の垣根を越えていくこと
ー今日はイタリアからダニエレ・セーぺとその仲間たちがゲストで参加しました。新曲「La Palummella」を彼らと制作しているわけですが、もともとダニエレとはどのように出会ったのでしょうか? 岸田:昔は週1回とかでレコード屋さんに行くのが趣味で、いろんなお店に行ってたんですけど、渋谷のタワーレコードはたくさん視聴機が置いてあって、いろんなジャンルがあるから、1階からずっと上っていって、全部聴いてたんですよ。その中でワールドミュージックのコーナーにダニエレ・セーペの『Jurnateri』があって、知らない人だったんですけど、それを一曲目から聴き始めて、すごくいいなと思って、レジに持っていって、ずっと聴いてたんです。 それから他の作品も集め出したんですけど、的が絞れない音楽性っていうかね。最初に聴いたのは室内楽的な作品やったんですけど、別のアルバムを聴いてみるとスカとかレゲエをハードコアバンドが演奏してるみたいなものだったり、バロックっぽいのもあったり、でも全部すごい好きで、体臭っていうか、何か立ちこめてくるものがあって、この人好きやなとずっと思ってて。ただ「ダニエレ・セーペって知ってる?」っていろんな人に聞いても誰も知らなくて、20年で知ってる人と2人しか会わなかったんですけど、たまたま去年旅行でナポリに行ったときに、ナポリといえばダニエレだなと思って、連絡をしてみたんです。 ーずっと聴いてはいたけど、面識とか繋がりはなかったわけですよね? 岸田:SNSをフォローしてたくらいなんですけど、ちょっとメッセージを送ってみたんです。そしたら夜中だったんですけど、「コーヒーでも一緒に飲まへんか」みたいな、すぐ返信が来て。でも翌朝もう発たないといけなかったから、実は私は日本人のミュージシャンで、こういう音楽を作っていて、あなたにかなり影響を受けてずっとやってるんですって、自分の『交響曲第一番』と、くるりの『天才の愛』のSpotifyのリンクをポンポンと貼り付けて、まあ聴かへんやろうと思いつつ送ったら、30分後ぐらいに返信が来て、「あなたは私と一緒で音楽に垣根を作らない人なんですね。とてもいいと思う」というメッセージをいただいて。で、その後も何回かやり取りをして、くるりを結構聴いてくれて、「この曲が好きだ」とか、あと「XTCみたいだね」って、よくおっしゃってたんですけど、それですごく会いたくなって、一緒に何か作ろうって提案したら、向こうも乗ってくれたというか、本当にいろいろ手厚くやってくれて。で、僕は彼の音楽が大好きだから、これまではプロデューサーの名前が入ってるもんでもアレンジはこっちでやってたんですけど、今回完全に投げたんですよ。それはくるり始まって以来初めてです。 ー今日は「ブレーメン」も演奏してましたけど、ウィーンの作曲家であるフリップ・フィリップが参加した『ワルツを踊れ Tanz Walzer』のときとも違うわけですよね。 岸田:フリップのときもヘッドアレンジとかはこっちでやってたけど、今回は完全に投げて、デモが来て、譜面が来て、足かけ2日半ぐらいで2曲、ベーシックからダビングから歌から全部録って。ダニエレもそうですし、彼の仲間たちもそうなんですけど、人柄がすごく好きで、一緒に時間を過ごしたのは今回も合わせてまだ数日だと思うんですけど、もうずっと一緒にいるみたいな感じがするんです。ダニエレとは「生き別れになった兄弟みたいだね」って話をよくしてて、何かがすごく似てるんですよ。会話が必要ないぐらい、あらかじめの相互理解がある人と出会えた、そういう瞬間でした。 ーさらに言うと、今回は弦楽四重奏の参加もスペシャルでしたね。 岸田:後藤くん(後藤博亮)というファースト・ヴァイオリンの彼も、Twitter(X)か何かでやり取りをしたことはあったんですけど、実際に会うのは今回が初めてなんです。彼はチェコのブルノフィルっていうところにいるんですけど、もともとくるりのコピバンをやってて、「ばらの花」をギター弾いて歌ってたことがあるらしくて。今回スコアを作って、ファンにしかわからないようなネタをこっちで仕込んでたわけなんですよ。ひとつの曲の中に別の曲のモチーフが入ってたりとか。 ー「ばらの花」のアウトロに「BABY I LOVE YOU」が一節入ってましたね。 岸田:そうそう、そういうのとかね。後藤くんもそういうのを気づいて、さらに譜面はこうだけど、それを自分なりにどう弾くか、どういう気持ちで弾くかみたいなところも含めて、すごくしっかり作ってきてくれて、それもすごくよかったですね。 ー『tiny desk concerts JAPAN』には「世界に向けて日本の音楽を届ける」というコンセプトもあって、国やジャンルの垣根なく音楽を作り続けているくるりは番組的にもぴったりの人選だったと思うんですけど、「世界に届ける」という意味では何か意識されていることはありますか? 岸田:「垣根がない」っていうのはすごく大事だと思っていて。垣根とか分類があるからこそ守られるもんもあると思うんですけど、僕らがやってる音楽は伝統音楽ではないので。もちろん、日本の伝統的な何かだったり、「La Palummella」にしてもナポリの伝統的な何かは音楽の中にしっかり入ってると思うんですけど、でも僕らがやってる音楽自体は……言い方はアレですけど、その辺の音楽をやってるだけっていうかね。それを誰かに届けるときに、歌を通して一瞬自分だけが違う場所にいるかのような気持ちになるとか、そういう風景や情景を入れられたときって、どんな国の人にも通じると思うんです。もちろん歌詞とかはね、これは何言ってんだろうなっていうのは、よその国の音楽を聴いたりとかしたら思うんですけど、でも伝わるものをやってたらちゃんと伝わると思うので……だから、逆にあんまり意識はしないかな。僕たちはスタイル的にも何かに縛られるのを嫌がる方で、分類されることとか、そういうのはむしろ嫌悪感があるぐらいで。「うちは創作居酒屋で、無国籍料理です!」みたいなんじゃなくて、もうちょっと自然に、何か置いてあるものを食べて、「この塩味なんなんすかね?」とか言ったらシェフが出てきて、「ヒマラヤの岩塩でございます」みたいな、そういう感じが好きなんですよ。 ーダニエレとシェアしているのも、きっとそういう感覚なんでしょうね。 岸田:そうですね。そういうことやと思います。 --- ◎放送予定 【NHK総合】 2024年10月28日 (月) 午後11:00 ~ 午後11:29 ※NHKプラスでの同時・見逃し配信あり
Atsutake Kaneko