くるりが語る『tiny desk concerts』の魅力、「生き別れの兄弟」ダニエレ・セーぺとの邂逅
くるりインタビュー:tiny desk concerts出演を振り返って
収録後に休憩を挟んで、岸田と佐藤にインタビューを実施。当初は収録の感想をコメント的にもらうつもりでしたが、この日ゲスト出演したダニエレとの出会いについても聞くことができたので、その会話をそのままお届けします。 ー岸田さんは途中「過去のtiny desk concerts(以下、tiny desk)をYouTubeで眺めていて、やってみたいと思っていた」とお話しされていましたが、tiny deskにはどんな印象をお持ちでしたか? 岸田:tiny deskについてめちゃくちゃ詳しいわけではないんですけど、演奏する場所についてもっと試行錯誤をしてもいいのかなっていうことはよく考えていたりして。私たちみたいなロックバンドはライブハウスやホールで演奏するのが常だったりするわけですけど、長いことやってるとどうしても飽きてくるというか、もっといろんなところで演奏したいなっていう気持ちはあって。で、だいぶ前に「Apartment Sessions」っていう別の企画を探し当てて、パンチ・ブラザースとかが出てたと思うんですけど、それがすごく魅力的だなと思って、こういうのやりたいなっていうのは画策してたんです。その後にtiny deskを知って、最初に見たのはハイエイタス・カイヨーテだったかな?そういう今っぽいバンドの演奏を見て、こういうのやりたいと思ってました。 佐藤:僕がtiny deskを認識したのはたぶんレイク・ストリート・ダイヴなんですよね。作品が出てたかなんかで検索したらたまたまtiny deskの映像が出てきて、ええバンドやなと思って。 岸田:どんな人たちかがわかりやすいよね。 佐藤:ライブハウスとかで作られた音でドンッてやる方がかっこいいバンドもいっぱいいると思うんですけど、あの場所で自分たちの生音でやるのがいいバンドもいて、そういう人たちが一番いい形で聴ける状態というか、それは素敵なことやなと思いました。 ー実際にtiny deskの環境で演奏してみて、感想はいかがでしょうか? 岸田:例えば、私が自分の部屋というか仕事場とかでポロンとギターを弾いてパッと歌ったりしたら、やっぱりそれが一番いいんですよ。もちろん、ロックフェスとかで大勢のお客さんの期待を受けてやるよさもあると思うんですけど、もうちょっと気楽なんが好きやったりもするんで……それはそれでどうかと思うんですけど(笑)、tiny deskはその感じにちょっと近いというかね。やっぱり生音なのがでかいんじゃないですか。出た音が全てっていう環境なので、小編成でやるのも一つの手だし、わりとそういう感じでやってらっしゃる方も多いと思うんですけど、僕らはそういうときに難しいことをしちゃうんですよ。だから、チャレンジでもありました。 ー今のところ日本版の中では最大編成ですね。 岸田:あんまり超えられたくないですね(笑)。 ー実際なかなか超えられない人数だし、あまりない編成だったと思います。佐藤さんにも実際にあの場で演奏してみての感想をお伺いしたいです。 佐藤:ここは本当のオフィスじゃないですか。さっき繁くんが「部屋」って言ってましたけど、部屋にも本当にいろいろあるんだなっていうのは思ったというか、やっぱり生音しか出てないから、例えば、ロッカーひとつあれば全然変わってくるんやな、みたいなことは思いました。あとよくいろんな人が限定のライブとかやってはるじゃないですか。浴衣着てる人限定ライブとか。僕らそういうのやったことないんですけど、今回はNHKで働いている人たちしかいなくて、そういう限られたお客さんの前でやるのは初めてやったんで、面白かったです(笑)。 ーNHKならではの空気感(笑)。完全に生音で、モニターもない環境で演奏することはなかなかないことだと思うんですけど、そこに関してはいかがでしょうか? 佐藤:お客さんのためにやるものやから、こういう形だと思うんですけど、自分たちのためにやるんやったら全員が内向きたいなと思いました(笑)。やっぱり後ろにいる人たちは前にある楽器や声がなかなか聴こえなくなるから、丸くなって、みんなが内を向いてやって、それをお客さんが上手に聴ける環境があったら最強なんやろなと思うんですけど……だからこれもあくまでライブなんだなっていうのがよくわかりました。 ー岸田さんは生音で、モニターもない環境で演奏することに関してはいかがでしたか。 岸田:何かを挟んでないので、やりやすいですね。みんなの演奏がよく聴こえるし、近いから顔も見えるし。佐藤さんとはちょっと立ち位置が違うから、感じ方の違いもあるかもしれないですけど、私にとってはむしろ普通です。 ーモニターがあった方がいいということもない? 岸田:モニターない方がいいです。あんまり好きじゃない。 佐藤:普通のライブハウスとかでイヤモニでやってると、演者がそれぞれ違う音量というか、違うバランスで聴いてやってるわけじゃないですか。それは足元のフットモニターでも一緒なんですよね。でも今回に関しては、もちろん立ち位置によって多少は違いますけど、全員一緒ぐらいの音量で聴こえるわけで、それは当たり前な感覚っていうんですかね。だから繁くんの言うやりやすさみたいなところがあるのかなと思います。自分だけ盛り上がって、バーっていってもうたら、「あ、飛び出た!」っていうことになるじゃないですか。それってイヤモニでやってたら当たり前にあったりすることなんですよね。楽器の種類やフレーズによって、他の人と音量がデコボコになってる瞬間がどうしてもあって、それをPAさんが直してくれてたりすると思うんですけど。 岸田:みんながフルパワーで演奏して、それをコンプで押さえつけてる、そういうのがロックフェスとかだとデフォルトなんですけど、自分たちはそうじゃない演奏の仕方を割とよくするので、でかいフェスの方が苦手です(笑)。これはテクニカルな話ですけど、音楽には「こういうメロディのときはこう盛り上がる」みたいなのがあるじゃないですか。クラシックとかだとPAも使わないし、楽譜に全部強弱も書いてあって、それを生でせーので演奏して作っていくわけですけど、ロックとかポップスとか、ダンスミュージックもそうですけど、大きい会場で聴かせようとすると、デフォルトとして大音量で演奏しないといけないっていうのがあるんですよね。それは楽譜にしたら全部フォルテシモって書いてある状態で、でもずっとそれだと歌が聴こえないから、ヴァースでうわものがなくなって、リズムと歌だけになるみたいな、そういう作り方だと思うんです。ポップスやラップもそうですし、メタルとかもね。 でもそうじゃなくて、もうちょっと音楽的に構築されてるものを演奏しようとしたら、大事なのは自然な流れのダイナミクスっていうんですかね。今日は演者がそれをちゃんと感じながら、スコアも結構使いましたけど、「ここは大きく、ここは小さく」とか、そういう一番基本的な演奏のスタイルを試せる場だったので、自分たちなりの「こう聴かせたい」っていう部分に関して、普段できないことに取り組めて、こっちにとっても収穫が大きかったですね。