<高校サッカー>四日市中央工を支える上下関係のないサッカー
正月の風物詩、全国高校サッカー選手権大会は1月3日に3回戦までの日程を消化。いよいよ、ベスト8が出そろった。履正社(大阪)のような初出場校があれば、市立船橋(千葉)のような伝統校もある多彩な顔ぶれとなった。 名門・四日市中央工業(三重)も、その8強に名前を連ねることとなった。今年度の四中工はレギュラーの過半数が下級生というチーム。3人は1年生だ。戦力充実の年とは言い難く、春先からこれと言った結果は残せていない。冬の選手権に向けて高い期待値を持っていたわけではなかった。ただ、いざ選手権が始まってみると、なかなかユニークな強さを見せつつある。 3人の1年生たちは伸び伸びとプレーし、劣勢の時間帯では粘り強さを発揮。無謀と紙一重である高めのラインコントロールも、うまくハマっている。初戦は矢板中央(栃木)との殴り合いを制して3-2で快勝すると、2回戦も帝京第三(山梨)に2-0と競り勝った。そして迎えた3回戦では、地元・桐光学園(神奈川)を1-0と接戦の末に下している。 「あのときと雰囲気が似てきている」。そう語ったのは樋口士郎監督だ。ここで言う「あのとき」とは、準優勝を果たした2年前の選手権についてである。当時も先発11人に2年生が6人、1年生が2人という“若い”チームで、大会前の期待値は低かった。「無欲、チャレンジャーという空気がある。チーム内の信頼関係があって、学年、サブ、レギュラー関係なくみんなで戦っている雰囲気がある。あのときと同じだ」(樋口監督)。 恐らくそれは、主将の坂圭祐にとって最高級の褒め言葉だったに違いない。まさしく彼が目指していたのが「2年前の雰囲気を作ること」だったからだ。「あの経験がなかったら、僕なんてどうなっていたことか……」と語る、2年前の体験。國吉祐介主将(当時)が率先して取り組んだ無用な上下関係の修正と、その結果として生まれた、先輩が後輩をサポートし、後輩が先輩をリスペクトしていたあのチームでの日々は、坂に大きな影響を及ぼしている。 「僕たちは準優勝した“あのとき”、3年生たちに支えられて、本当に伸び伸びとやらせてもらった。だから今度は僕らがそれをやる番なんです」と言う。もちろん、これは上下関係の否定ではない。むしろ肯定だ。先輩だからこそやるべきことがある。後輩のために気を配る義務がある。そして後輩に対して「褒めるところは褒めて、怒らなければいけないときは厳しく怒る」必要もある。だからこそ、後輩からの敬意を受けられる。それはまさに國吉が自分たちへ示していた態度であり、坂にとっての「目標」なのだ。