ひろゆき氏の思考法は「江戸時代に大流行した学問」にそっくりだった…!? 不安な若者の心をとらえる「頑張らない思想」の知られざるルーツ
ひろゆきという「教祖」
前編では、既存の宗教が衰退するにつれ、「宗教っぽいもの」やスピリチュアルに惹かれる日本人が増えていること、さらに企業が宗教のノウハウを取り入れつつある実態をみてきた。一方、企業組織の変化と並行して、日本人ひとりひとりの生き方にも「宗教っぽいもの」が浸透している。「自己啓発」の再流行だ。 【グラフを見る】日本人は「信仰心」をなくしつつある…? 自己啓発そのものは決して目新しくはないが、評論家の真鍋厚氏によれば、その世界にも近年、静かな転換が起きている。 「かつては自己啓発といえば、セミナーに出席する、英語学習法や記憶術を学ぶといった『頑張るため』の内容が多かった。しかし令和に入ると、一転して『頑張らない』自己啓発が広く支持されるようになったのです」 象徴的なのが、「2ちゃんねる」開設者のひろゆき氏が一世を風靡したことだ。若者に「論破王」として人気を博する彼は、50万部を突破した2020年の著書『1%の努力』でこう説いている。 〈みんながみんな、出世や競争だけを考えて生きていくのは息苦しい〉 〈僕の座右の銘は、「明日やれることは今日やるな」だ〉 ひろゆき氏の人生哲学をまとめると、「自分と他人を比べて焦っても仕方がない」。そして「人生は、心の持ちよう一つで変えられる」というものだ。
実は「伝統的な考え方」だった
なぜ、現代人にひろゆき氏の言葉がウケるのか。実は、こうした思考法はむしろ日本の「伝統的な考え方」なのだという。真鍋氏が続ける。 「『心の持ち方次第で、人生はうまくいく』という日本人が親しみやすい思考法の源流の一つは、江戸中期の思想家・石田梅岩が創始した『心学』にあります。儒教を核として仏教や神道の教えも取り込んだ道徳規範で、武士や商人の間で絶大な影響力を持ちました。 心学には『心の働き』を重視し、その可能性を絶対視するところがありました。ひろゆき氏の言葉は、広い意味でその延長線上にあると言えるでしょう」 一見すると目新しい「逆張り人生哲学」に見えるひろゆき氏の思想にも、れっきとした宗教的なルーツがある。だからこそ、不安の中で生きる若者たちの心をつかんでいるのかもしれない。