「ベッドから転げ落ちそうになるほどの衝撃」100年経っても最先端な作品を残したカフカという存在 ガルシア=マルケスや安部公房に影響を与えた20世紀を代表する巨星
そういう作品を集めたのが、『決定版カフカ短編集』だ。 また、この100年のあいだに、多くの読者から愛されてきた作品もある。たとえば、無生物とも生物ともつかない不思議なオドラデクの出てくる『父の気がかり』という作品など。「後世の人たちの判断」は正しいわけで、そういう作品も収録した。 カフカの作品には長編、短編のほかに、じつはたくさんの断片がある。短い、未完成な、小説のかけらだ。私はカフカの作品はすべて好きだが、なかでもとくに断片がたまらなく好きだ。完成品より未完成品が好きというのは、変に思うかもしれないが、ロダンのトルソ(頭や手足の欠けた彫刻)のように、カフカの断片には、完成した作品にはない、独特の魅力がある。たんに完成途中で放棄されたのではなく、“もともと断片というかたちでしか書けなかったもの”もあると思う。 そういう断片を集めたのが、『カフカ断片集』だ。これまで断片だけを集めた本がなかった。全集にはそういう巻もあったが、今は入手困難だ。文庫で断片を読めるようになれば、多くの人に新しいカフカの魅力と出合ってもらえるのではないか。初めてカフカを読む人にも、短編や長編は読んでいる人にも。そういう思いで、この断片集を編訳した。ぜひ手にとってみていただけたらと願っている。 [レビュアー]頭木弘樹(文学紹介者) かしらぎ・ひろき文学紹介者。筑波大学卒業。カフカの翻訳と評論などを行っている。編訳書に、『「逮捕+終り」―『訴訟』より』(カフカ)、『希望名人ゲーテと絶望名人カフカの対話』(ゲーテ、カフカ)がある。 協力:新潮社 新潮社 波 Book Bang編集部 新潮社
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